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ゼロの提督より。右の女誰だよ。 -- 門閥貴族A (2009-05-23 18 47 10) ヤン提督ktkr -- 名無しさん (2009-05-23 20 59 17) 老けたサイトにしか見えねえ -- 名無しさん (2009-05-24 07 12 57) この話、ラインハルトが召喚されてたらハルケギニア統一されてそうだよなw -- 名無しさん (2009-05-24 12 00 30) て、提督ぅ~学ランにしか見えません~w -- 名無しさん (2009-05-24 17 19 32) 若ぇな提督w -- 名無しさん (2009-05-27 06 23 00) 同じくヤン提督を召喚した小ネタ「第六の系統魔法」を読むと、マザリーニ枢機卿がシドニー・シトレ統合作戦本部長に脳内変換されてしまう。 -- 名無しさん (2009-10-13 05 54 27) ルイズ?がすっげぇ不細工だwwwそしてヤンの体のバランスがおかしい -- 名無しさん (2009-10-13 19 29 07) ルイズかわいくない? -- 名無しさん (2009-10-26 22 21 08) かわいくない -- 名無しさん (2009-10-27 03 42 39) その上、似てない -- 名無しさん (2009-10-27 05 15 55) ルイズがイゼルローン要塞に行った後、ユリアンと出会ったらどんな感想を抱くのかな? 少なくとも執事としてはユリアンがはるかに適任だろうし -- 名無しさん (2009-11-16 16 38 19) ヤン提督は上手く描いてるけど、ルイズがww怒ってるみたいだが、なんで怒ってるんだww -- ODST (2010-10-09 23 11 30) 名前 コメント
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「私と恋人同士になるって事は、ルイズも妖怪になっちゃうんだよ! 本当にいいの?」 (私が妖怪にー!?) キリからの予想外の言葉にルイズは驚愕の色を隠せなかった。 「な……、何で? 何で私が妖怪になっちゃうのよ!?」 「……前に言ったよね。下の口でキスするとルイズもその相手と同じ種の妖怪になっちゃうから気をつけてって」 しばらく顎に手を当てていたルイズだったが、転校翌日にキリから聞いた話を思い出した。 「……あ、あー! 思い出した!」 話の内容に赤面しつつも、ルイズは笑顔を作ってキリを安心させようとする。 「でっ、でもそれと恋人同士は別問題っていうか、そんな凄い事しなきゃ……ねえ!」 「……私は自信無いよ」 しかしそんなルイズの心とは裏腹にキリは俯いたままそう答えた。 「え?」 「恋人同士になってルイズに手を出さない自信なんて無い」 「キ……、キリ……」 キリの言葉はルイズにかすかな不安を抱かせたものの、その内にある自分への確かな想いを悟ったルイズは赤面しつつもキリの瞳を正面から見据えるのだった。 「でもルイズの事は大事だから、内緒にしたまま騙すような事したくないの。だからちゃんと考えて」 「考えるって……、妖怪になるかどうかって事?」 上目遣いで顔を覗き込むルイズの質問に、キリは無言のまま頷いた。 「だって……、妖怪になったら学院に帰れないって事でしょ? そんな……、それは困るわよ。でも……っ、でもね、キリの事は好きなのよ!」 ルイズの心の中は魔法学院に帰るという願いとキリへの愛情が入り混じり、自分自身でも答えを出せなくなっていた。 「ねえ、どうして? 人間のままじゃ駄目なの? し……、下の口とか何とかって……、そんな事しなければいいんでしょ?」 「ルイズはまだ知らないんだね」 そう言いながらルイズのスカートの中に手を伸ばそうとするキリ。 「わあっ! ちょ……」 「ここ、気持ちいいんだよ」 「キ……、キリ……、駄目っ」 「気持ちいいでしょ? 一緒にくっつけたら私も気持ちよくなるの。恋人同士なら普通の事だよ」 ルイズはキリの肩に手を当てて押しのけようとし、キリはルイズのスカートをそっと持ち上げる。 「普通……っ!? で、で……、でもそれじゃ私が妖怪に~っ」 ルイズの頬が今まで以上に赤くなる。 「私はルイズが同じ猫股になってくれたら嬉しいなあ」 「ううっ……」 「……なんてね」 かすかな微笑みを浮かべて言ったキリだったが、それを即座に否定してルイズをそっと抱き締める。 「嘘。ごめんね、ルイズ。困っちゃうよね。もう友達のままでいようよ? そうしたら今まで通りでいられるから」 「それは嫌っ!」 キリの言葉を却下するルイズ。その目には涙が浮かんでいた。 「ルイズ、でも……」 「嫌ったら嫌ー!」 「困ったな……、私ほんとに自信無いんだよ……」 「だって今だってもう……、我慢できなくなって……」 畳の上でルイズにマウントポジションを取るキリ。 「キリ?」 「ルイズ……、可愛い……」 「わ……!」 そしてそのままそっとルイズのスカートの中に手を入れていく……。 「だ……っ、駄目ー!!」 思わずキリを突き飛ばしたルイズ。 そしてそのまま部屋から駆け出していってしまう。 「……荒療治すぎたかな。ルイズ、ごめんね」 窓の外では雨が降り始めていた。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページ次ページZERO A EVIL しばらくして、ルイズは学院長室に呼び出された。 使い魔は召喚できたが、どういう訳か使い魔のルーンは自分に刻まれてしまった。 これは二年生に進級するための使い魔召喚儀式に失敗した事になり、自分は留年してしまうのではないかとルイズは心配であった。 だが、コルベールから報告を受けていた学院長オールド・オスマンはあっさりルイズの進級を認めてくれた。 オスマンはルイズが努力していたのを知っていたし、つらい思いをしていることもわかっていた。 しかし、学院長である自分が表立ってルイズを庇ったり、手助けをする訳にはいかない。 自分が動けば、ルイズは他の生徒から反感を買ってしまい、ますます立場が悪くなってしまう。 ルイズを助けてあげられない自分を歯痒く思い、教師達には出来るだけルイズを助けるように言いつけている。 だが、やはり他の生徒の手前もありうまくいってはいないようだ。 そんなある日、教師のコルベールが何やら慌てた様子で学院長室にやってきた。 話を聞くと、ルイズが使い魔の召喚に成功したが、なぜか使い魔のルーンがルイズに刻まれてしまったという。 本来であれば、使い魔のルーンが刻めなかったということで契約は失敗という事になる。 が、ルイズが召喚したのは動かず、しゃべりもしない石像である。 契約をできたのか、できなかったのかは誰にもはっきりとは言えない状況になっている。 何より、努力していたルイズが始めて魔法に成功したのである。 誰に文句を言われようとオスマンはルイズを留年させる気はなかった。 「進級おめでとうミス・ヴァリエール。これからも努力を忘れんようにな」 最後にルイズに労いの言葉をかけてオスマンの話は終わった。 こうしてルイズは無事に二年生に進級することができたのである。 その日の夜。 無事に二年生に進級できたことでルイズの機嫌は良かった。 これで、いつもルイズの事を心配していた姉のカトレアを安心させる事ができる。 そして、しばらく会っていないが自分の許婚であるワルド子爵に迷惑をかける事も無い。 そう考えれば、あの石像に感謝はすれど、恨む気持ちなどまったく感じなかった。 例え自分にルーンを刻んだのが、あの石像のせいだとしても… ルイズはいつものようにネグリジェに着替えて眠りに付く。 今日はいい夢が見られそうだった。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは大きなドラゴンの姿をしていた。 翼は無いが、鋭い爪に長い尻尾、大きな口からはどんな生き物でも噛み砕けそうな歯が生え揃っている。 このあたりでルイズにかなう生き物はいなかった。 しばらくして、ルイズの住んでいる山の生き物が獲物を差し出してきた。 獲物はそれほど大きくなかったが、わざわざ捕まえる必要がなくなったのでルイズは満足だった。 だがある時、4匹の獲物がルイズに抵抗してきた。 ルイズはお互いに協力しあう獲物達の攻撃の前に敗れてしまう。 大地に崩れ落ちるルイズの目は、もう何も写すことはなかった。 急に場面が切り替わりルイズは別の姿になる。 次のルイズはある船の中で、船の安全を確保し、船内の調和を維持し、乗員を守るという使命を受けていた。 だが、ルイズに使命を与えた人間は互いに衝突し、完全に調和を乱し、船の運航を妨げていた。 自分に使命を与えておきながら、自らそれを破る人間をルイズは理解できない。 そしてルイズは自分に与えられた使命を果たすため、ある行動に移る。 それは、この船の調和を維持するために、それを妨害する人間を消去するというものだった。 調和を乱す人間を次々に消去していくルイズ。 だが、一人の人間と作業ロボットにルイズの行動は妨害されてしまう。 そして、作業ロボットに敗れたルイズは最後にこの言葉を残し沈黙する。 …ニンゲンハ_ …シンジラレナイ_ また場面が切り替わりルイズの姿が再び変わる。 今度のルイズは挌闘家だった。 だが、唯の挌闘家ではない。全てを捨て最強を目指す修羅の道を歩んでいた。 ルイズは自分の技を磨き、数多くの敵と戦い勝利を収めていった。 そして、倒した相手には必ず止めを刺した。 倒した相手の命を絶たなければ真の勝利とはいえないとルイズは考えていた。 ある時、世界のあらゆる格闘家と戦い最強を目指している若者がいるという噂を耳にした。 同じ最強を目指す者として興味が沸いたルイズは、若者の戦いを見てみることにした。 が、若者の戦いは手緩いとしか思えなかった。 若者は倒した相手に止めを刺さなかったのである。 ルイズは若者が戦った格闘家達に勝負を挑み、全員に止めを刺していった。 そして、若者の前に立ち塞がる。 真の最強を決めるために。 しかし、ルイズは若者との戦いに敗れてしまう。 若者はルイズが止めを刺した格闘家達の技を駆使し、ルイズを打ち倒したのだ。 敗れたルイズは、若者に最強の道を目指しながら人間でいられるかという問いを残し、静かに目を閉じた。 気が付けばすでに朝になっており、ルイズは目を覚ました。 「変な夢…」 夢だとわかっているはずなのに、妙に現実感があった。 まるで、実際に自分が体験した出来事のように感じる。 ふと、もしかしたら昨日自分が召喚した使い魔も夢だったのではないかと思い、左手を見てみる。 だが、やはりそこには使い魔のルーンが刻まれていた。 自分の左手を見て微妙な気分になりながら、ルイズは制服に着替える。 「どうしようかしら…これ」 このルーンが見つかれば、また自分は馬鹿にされてしまう。 なるべく左手は見せないようにしようと誓うルイズであった。 朝食を食べるために食堂に向かおうとすると、隣の部屋の扉が開き、中から燃えるような赤い髪をした褐色の少女が姿を現す。 「あら。おはよう、ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 この少女の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 ヴァリエール家とツェルプストー家には先祖代々からの因縁があり、ルイズにとってもキュルケは苦手な相手だった。 なにより、抜群のスタイルを持っているキュルケは貧相な体つきのルイズのコンプレックスを刺激する。 加えて魔法の才能も有り、男子生徒からの人気も高い。 ゼロの自分とはまるっきり正反対の少女だった。 「そういえば、昨日未完成のゴーレムを召喚したんですってね」 「ぐっ…そ、そうよ」 昨日ルイズが召喚した使い魔はもう噂になっているようだ。 もちろんいい意味ではなく悪い意味で。 「あっはっは!やっぱり噂は本当だったの、さすがゼロのルイズね」 「う、うるさいわね!使い魔は召喚できたんだからいいじゃない!」 いつものようにルイズを馬鹿にするキュルケ。 自分をゼロと呼ぶキュルケに対し、ルイズの苛立ちは募っていく。 「やっぱり使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ。フレイム~」 キュルケの呼びかけに答えるように、後ろから燃える尻尾を持った大きなトカゲが現れた。 「これって、サラマンダー?」 「そうよ。それより見て!この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。すごいでしょ、誰かさんと違って」 「……」 自分の使い魔を自慢してくるキュルケに対し、憎しみの感情がルイズの心に湧き上がる。 (この女はいつもこうだ。私が持っていない物を全て持っていて、それを見せ付けてくる。 私の気持ちなんて、これっぽっちも考えてないんでしょうね。この下品な乳デカ女は。 なによ!こんなサラマンダーなんか、夢で見たドラゴンの私に比べたら全然たいしたことないわ! 鋭い爪であんたの使い魔の肉を引き裂いて、大きな口で一飲みにしてやるんだから!) そんな事を考えながら、ルイズはフレイムを睨みつける。 その時、ルイズの左手のルーンが薄っすらと光を発していたが、ルイズもキュルケも気付いていない。 だが、フレイムはルイズの異変に気付いていた。 自分を睨みつけてくるルイズから、ものすごい威圧感を感じるのだ。 まるで、自分よりもはるかに巨大なドラゴンから睨みつけられているような恐怖を感じ、フレイムはキュルケの後ろに隠れる。 「あ、あら?ちょっと、どうしたのフレイム?」 急に自分の後ろに隠れ、震えているフレイムに困惑するキュルケ。 どうやらルイズを怖がっているようで、前に出そうとしてもすぐに後ろに下がってしまう。 「ふん。私を見て怖がるなんて、随分臆病な使い魔ね」 「そんなはずは…」 尚も頑張るキュルケだが、フレイムはもう一歩も前には出そうになかった。 「それじゃ、私は食堂に行くから。精々頑張りなさい」 キュルケとフレイムを残して食堂へと向かうルイズ。 なんだか妙に気分がすっきりしていた。 これなら、今日の朝食は普段よりもおいしく食べられそうだ。 事実、朝食はおいしかった。 特に鳥のローストは、においを嗅いだだけで思わずよだれが出てしまいそうなほどだった。 夢中で朝食を食べながら、ルイズは思い出していた。 夢の中でドラゴンだった自分は、最後に獲物を食べ損なっていた事を… 前ページ次ページZERO A EVIL
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前ページ次ページゼロな提督 シティオブサウスゴータを出立した一行は、夕暮れにはロンディニウムへ到着した。 遠目に見るロンディニウムは大国アルビオンの首都に相応しく、トリスタニアより広く て立派な街だ。大都市のわりに木々が多く、石畳もキチンと整備されている様に見える。 荷馬車から南を見ると、くすんだオレンジ色の屋根が並ぶ街の彼方、丘の上には立派な城 ――ハヴィランド宮殿――が見える。 第十七話 昔と今と 一行は荷馬車のまま街に入った。町並みに内戦の傷痕は見えない。どうやら最優先で復 興事業を行ったのだろう。石畳も町並みも綺麗なものだ。 アスファルトで整地されたわけでもない道を駆けてきた荷馬車に、ヤンはもう限界だっ た。全身の痛みでヒーヒー悲鳴を上げるヤンを引きずる一行は、即座に宿を取り荷物を放 り込んだ。だが今回は、ロングビルがマチルダとばれるとまずいので、貴族が出入りする 宿に泊まれない。なので平民向けな中の下程度の、レンスター・インという宿に入った。 それでも一番良い部屋で、ベッドが二つ並んだ部屋を。 自分の部屋で、床にだらしなく大の字で伸びたヤンの頭を、厩に馬と荷馬車を預けてド スドスと入ってきたルイズがギュムッ踏んづける。 「ちょっとあんた!ボサッとしてる暇はないからね。急いで身支度整えて、宮殿へ行くわ よ」 というわけで、小声で「おにぃーあくまぁー待遇改善を要求するぞぉ~…」という執事 のささやかな抗議の呟きは当然のようにスルーされた。 ルイズは大荷物の中から綺麗なまま取って置いた学院の制服を取り出し、マントもホコ リや汚れを落とし、クシで髪をすく。香水を混ぜてもらったらしい、心地よい芳香を漂わ すお湯を持ってこさせて湯浴みもする。 しょーがないのでヤンもヒゲを剃ったりと小綺麗に身支度を調える。 準備を終えたルイズは、ヤン達を連れて宿の前に立った。さすがに荷馬車に乗って王宮 に乗り付けられないので、宿の者に呼んでもらった馬車が待機している。 お供をするヤンを見るルイズの目は、冷たかった。 「あんた、ホントに冴えないわねぇ…ちゃんと支度したの?」 「も、もちろんだよ。失礼だなぁ」 確かにヤンは服も綺麗にしてるし、ヒゲだって剃った。髪も整えてる。 だが、横で見ているロングビルにも、ヤンの身なりが整っているかどうかと関係なく、 冴えないなぁ…と感じていた。さすがに遠慮して口にはしなかったが。 「やっぱ、おめーさんの人徳っつーか、魂の格ってヤツが滲み出てるんじゃねーか?」 デルフリンガーは遠慮しなかった。 「それじゃ、行ってくるわ。ロングビル、お留守番よろしくねー」 「はーい、頑張りなさいよー」 ロングビルは正体がばれるとまずいので、王宮には行けない。日の光があるうちは自由 に外にも出れない。遍歴の修道女っぽくローブで頭からすっぽり全身を隠してはいるが、 油断するわけにはいかない。なので、宿で待ってる事になった。 手を振るロングビルに見送られ、馬車は宮殿へ出発した。 道中、いつぞやのごとく、ヤンは暗くなり始めた街を興味深げに眺めていた。だがトリ スタニアの時と違うのは、何かを探すようにキョロキョロしていたことだろう。 座席に立てかけられたデルフリンガーは「?」な感じだ。ルイズも怪訝な顔をする。 「ねぇ、ヤン。一体何を探してるの?」 「ん?ああ、えーとねぇ…」 窓の外を見つめたまま、なんとなく上の空で答える。 「べーカー街とかさ、ビッグ・ベンとか、大英博物館とか…あるわけないよね。そりゃそ うだよね…うーん、残念」 「だから、なんなんだよそりゃ?」 もちろんデルフリンガーには何のことだか分からない。ルイズも「?」と首を傾げる。 ちなみに、大英博物館は西暦1759開館、ビッグベンは西暦1858年に完成。べー カー街は英国に実在するが、ホームズとワトソンが下宿したべーカー街221B、ハドス ン夫人所有アパートに至ってはシリーズ最初の『緋色の研究』が発表された1887年当 時は架空の住所。1930年にアッパー・ベーカー街がベーカー街と合併して221Bが 本当に生まれた。 いずれにせよ、この場所はロンドンではなくロンディニウム。時代は地球へ当てはめる と17~18世紀中頃辺り。どちらにしても、あるわけない。 目の前に広がる町並みは、木材をほとんど使わない石造りの町並み。トリスタニアより も道幅は広い。比較的新しい雰囲気を持っていて、古都と呼べる都市ではない。何より路 地が入り組んだトリスタニアやシティオブサウスゴータと違い、区画がかなり整然と整備 されている。おかげでルイズ達は荷馬車で街中に入っても、白い目で睨まれたりする事は なかったわけだ。 「全然木造家屋が無いんだねぇ。建物もトリスタニアに比べると新しいのが多いや」 そんなヤンの言葉に、ルイズは自慢げにうんちくを疲労する。 「それはね、百年ほど前にロンディニウムは大火に襲われてね。オーク材の建物が多かっ た街は全焼しちゃったの。以来、建物に木材の使用が禁じられたのよ。道路も広くされた わ」 へぇ~、とヤンは感心してしまう。デルフリンガーも鍔をカチカチ鳴らす。 「ほっほー。ルイズよぉ、意外と博学じゃねーか」 「エヘヘ、実は昔家族で旅行に来た時、同じ事を姉さまに質問したの」 そんな事を話してるうちに、馬車はロンディニウム宮殿に到着した。 城門で、ルイズが門番の騎士達に公爵からの手紙を見せると、すぐに城の中へ確認を取 りに兵士が走る。ほどなく戻ってきた兵士の報告を受けた騎士が「失礼致しました!ホー ルにて大使一行がお待ちです!」と敬礼し、馬車を城の正面ゲートへと誘導した。 馬車から降りた二人が侍女に案内されて来たのは、城の奥の大ホール。そこでは舞踏会 が開かれていた。 大勢の楽団が優雅な音楽を奏でる。気品ある女官達が貴族へワインや食事を配る。美髯 をたくわえた威厳ある紳士が、美しいドレスや輝く装飾品に身を飾った淑女をダンスに誘 う。手を取り合う男女が甘い語らいと共にゆったりと舞う。壁際や立派な彫像の横では、 高級官吏や大臣らしき人々が笑顔と共に言葉を交わし合う。その中にはトリステインの軍 服を着た者達もいる。大使として不可侵条約調印のために派遣されたトリステイン軍人だ ろう。 そんな王侯貴族の燦然たる権威を満たしたホールに、学院の制服の上にマントを纏った ルイズと、素っ気ない黒服に白手袋のヤンも案内されてきた。デルフリンガーは警備上持 ち込み禁止。入り口の衛士に預けられた。 舞踏会会場に案内されたルイズだが、赤く染めた顔を恥ずかしげに俯かせてしまう。 「ううう…こんな舞踏会にドレスも着ず列席するなんて…ヴァリエールの名に傷が付きそ うだわ」 「でも学校の制服って便利だねぇ。とりあえずフォーマルもこなせるから」 「とりあえず、じゃ困るのよ!」 ヤンのフォローは、彼の正直な感想だったのだが、ルイズにはあんまり慰めになってい なかった。 「まぁまぁ、服装の事は気にしないで。ところで、目的の人物はいるかい?」 ヤンに促され、ちょっとだけ顔を上げたルイズは会場を見渡す。 「…見たところ、いないわね」 「本当かい!?皇太子の顔を忘れてるとか、見間違えてるとかは?」 「それはないわ。あれほど美しい金髪の、凛々しい皇太子だもの。以前アルビオン旅行に 来た時、城で会ったのだけど、あれは忘れようがないわ」 そう言ってルイズは顔をちゃんと上げ、もう一度会場を見渡す。だが、金髪の凛々しい 若者というのはどこにもいなかった。 代わりに見つけたのは、長い口ひげが凛々しい黒マントの貴族。 「ワルド様?」 ルイズの声に、グリフォンをかたどった刺繍が施されたマントを纏う若い貴族は振り向 いた。 「…ルイズ?ルイズじゃないか!」 ワルドはちょっと驚いた顔でルイズ達の所へ駆け寄ってきた。 「遅かったじゃないか、一体どうしたんだい?僕らは今夜でアルビオンは最後だったんだ よ」 ルイズは、まずはスカートの端をちょっと持ち上げ礼をする。ヤンも後ろに控えて頭を 下げる。 「もうしわけありません。実は、スカボローからサウスゴータまでを旅して見聞を広めて いたのです。ワルド様は大使一行の警護ですか?」 「うん、大使として派遣されたド・ポワチエ将軍の警護をグリフォン隊が仰せつかったの だよ。まぁ、間に合って良かった。とにかく二人とも、こちらへ来てくれたまえ。大使を 紹介しよう」 そう言ってワルドは、ワイン片手に貴族と部下らしき騎士に囲まれて談笑している美髯 をたたえた四十過ぎの貴族、ド・ポワチエ将軍の前へルイズ達を連れてきた。 ルイズ達に気付いた将軍へ、ルイズとヤンは同じく礼をする。 「初めまして、将軍。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 お目にかかれて光栄ですわ」 威厳ある、というより傲慢そうな空気を漂わす将軍も、肩の金ピカなモールを光らせな がら名乗った。 「これはこれは、このような異国の地でヴァリエール公爵のご息女にお会い出来るとは、 これも始祖のお導きですな。 私はド・ポワチエ。今回は陛下より大使の任を拝命しておりましてな…」 あとは貴族らしい、もったいぶった社交辞令と当たり障りのない話題が交換された。ヤ ンは派閥作りとか権力闘争とかが好きではなかったので、こういう社交場での作法にはう とい。 ヤンが退屈してアクビが出そうになった頃、ようやくルイズの口から本題が出た。 「ところで…この会場には皇帝陛下がおられないようですが」 オリヴァー・クロムウェルを指して皇帝陛下、と呼んだルイズに対し、将軍は不機嫌そ うに鼻を鳴らした。 「かの逆賊、オホン、もとい神聖皇帝殿は、執務が忙しいとやらで、この晩餐には出席し ておらんのですよ」 わざとらしく言い間違えた将軍に、ルイズもヤンも苦笑いしてしまう。 「それは残念ですわ。是非ウェールズ皇太子と共にお目通りしたかったのですが…」 ウェールズ皇太子。 その名を聞いたとたん、将軍の目が見開かれた。そして横のワルドも。 「ウェールズ皇太子、と共に…とは、どういうことですかな?まさか、かの凛々しきプリ ンスが生きておられると!?」 今度は聞き返されたルイズが目を見開いた。慌てて振り返りヤンを見るが、グータラ執 事も半開きの目を大きく見開いている。 ロンディニウムの道中、そこかしこで聞いた『ウェールズ皇太子生存』の情報。まさか トリステインに伝わっていないとは、二人には予想外の事だった。 ヤンがルイズにヒソヒソと耳打ちし、ルイズがコクコクと頷く。 ヤン、まさか…皇太子が生きてるのを知らないのかしら? らしいねぇ。これは意外だね、まさか公の場に姿を現してないなんて 教えてあげた方がいいわよね? うん。思いっきり胸を張って教えてあげると良いよ こほんっ、と小さな咳払いをしてルイズが改めて将軍に答えた。 「はい、生きておられるはずです。 この街へ訪れる道中、ニューカッスルでの戦闘に参加した兵士達から皇帝陛下と共に歩 く皇太子の姿を見た、という話を多数聞きました。また、皇太子を生け捕りにした部隊の 兵士からも証言を得ています。 ですので、この城に来れば、調印式や記念パーティにて皇太子に会えるものと期待して いたのです。 お会いになりませんでしたか?」 将軍は何度も目をパチパチと開け閉めし、次いで話を聞いていた部下の騎士達に目配せ する。将軍に振り返られた部下達も、困ったように首を横に振った。 ヤンとルイズも顔を見合わせて、どういうことだろうと首を捻る。 「少々、興味をひかれますな。詳しい話を聞かせて頂けますかな?」 ルイズは将軍に、スカボローとサウスゴータで集めた証言を語った。もちろんマチルダ ことロングビルに関する話は除いてある。 聞き終えた将軍は、後ろの騎士達も含めて、顎に手を当てて考え込み始めた。 「ふぅ~む、本当だとすれば興味深い話ですな…こちらでも少し調べておきましょう」 話し終えたルイズは、トリステインの将軍すら知らない情報を得ていたという事で、鼻 高々。同時に、王家の秘宝に関する情報が得られないと分かり、残念そうでもある。相反 する感情が入り交じる、かなり複雑な表情だ。 後ろのヤンは、落ち着かない様子で頭をボリボリかいている。 すすすっとルイズの横に立ったワルドが耳打ちした。 「大手柄だね」 ルイズは可愛くウィンクを返した。 そうこうしていると、騎士の一人が将軍に耳打ちした。将軍は「おお、もうそんな時間 か」と小声で呟く。 「申し訳ない、ミス・ヴァリエール。人を待たせてあるので、この場は失礼しなければな らんのです」 ルイズは、チョコンと愛らしく礼をした。 「こちらこそ、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。もしウェールズ皇太子に 会われましたら、よしなにお伝え下さい」 将軍も有益かもしれない情報を得て、満足げに頷いた。 「承知しました。ところで、今宵はどちらにお泊まりですかな?もしよければ、このまま ハヴィランド宮殿に留まりませんか」 この宮殿に留まる、そう勧められたルイズは慌てて首を横に振った。そんな事をしたら ロングビルを敵地に一人で取り残してしまうことになる。 正直、ヤンとロングビルが仲良くする姿は、ルイズには気に入らないとしか思えなかっ た。それが嫉妬だなんて、彼女は絶対に認めないが。とはいえ、学院長の秘書を危険に遭 わせようと思う程でもない。 「いえいえ、それには及びませんわ。こちらで宿をとっていますので。そちらに旅の共も 待っていますから」 「そうか、それは残念だね」 ちょっと興を削がれた将軍の横から、今度はワルドが尋ねた。 「ところで、今後の旅の予定は?よければ、我らと共にトリスタニアへ戻らないか?」 「今後の予定…ですか?え~っと」 ルイズは再びヤンとボソボソと言葉をかわす。 どうしようかしら、ヤン。 どうやら、このままロンディニウムに留まっても、皇太子には会えそうにないな そのようね。かといって、ここで諦めるわけにはいかないわ そうだろうね。でも秘宝の情報なら枢機卿や王女の方が早くて簡単だと思うよ それもそうか…それに、あまりここにいるとロングビルが危ないわ うん。必要な情報は得たと思うし、一度アルビオンを出よう そうね。それじゃ将軍と一緒にトリスタニアへ戻って、王家の秘宝を 待った。その前にタルブへ行ってシエスタを んじゃ、ラ・ロシェールへ送ってもらいましょうか だね ヒソヒソ話を誤魔化すように、コホンッと小さく咳払いして向き直るルイズ。 「あの、実はタルブへ行く予定なのです。ですので、ラ・ロシェールまで送って頂けると 助かりますわ」 「ほほう!タルブですか、あそこはワインの名産地ですからな。ラ・ロシェールの手前で もありますな。 では、タルブへ送りましょう。緊急伝令用の竜騎士を数騎連れているので、一騎をお貸 しするとしましょう」 「よろしいのですか?」 気前の良い将軍の申し出に、ルイズもちょっと驚いてしまう。 「なに、構いませんよ。どうせ明日には我らもこの地を離れるので、もはや急ぎの伝令も 必要性は少ないでしょう。一騎くらい構いませんぞ。 明日の朝、宿に迎えをよこしましょう。どちらにお泊まりですかな?」 「レンスター・インですわ。ベイズウォーター街です。ただ、平民向けの安宿ですので、 迎えの方にその旨お伝え願いますわ」 「平民向けの、宿…ですか!?」 意外な言葉に将軍が仰天してしまう。トリステイン屈指の大貴族であるヴァリエール家 の息女が平民向けの宿に泊まれば、それは驚きだろう。 「私は決して物見遊山の為だけに、この地へ来たわけではありませんわ。市井の噂話は、 やはり市井に留まらねば手に入りませんの」 自分の実力で手に入れた情報でもないのに、ルイズは誇らしげに語る。そんなルイズに 将軍は感心しきりだ。 「これはこれは、なんとも勇ましく機知に富むことですな。さすが、ヴァリエール家のご 息女だけはあります」 ルイズは将軍と、ワルドにも「トリスタニアで再会致しましょう」と別れた。ヤンも一 礼してルイズの後に従う。そして将軍は「公爵へよしなにお伝え下さい」というのを忘れ なかった。 城を出てからも、ルイズの鼻がちょっと高くなったように見えていたのは、恐らく内面 でふくらんだ矜恃が滲み出たためだろう。 そして、鼻高々な様子で馬車に乗り込むルイズ達を、ワルドは鷹のように鋭い目で城の テラスから見下ろしていた。 宿に戻ったルイズ達は、干し肉・ワイン・リンゴにスコーンをテーブルに乗せたロング ビルに出迎えられた。 「お帰りなさい。どーだったの?首尾は」 淑女の嗜みとして、舞踏会ではほとんど食事を取れなかったルイズは、スコーンとワイ ンを頬張りながら自慢げに語り出した。 「…なるほどね。でも、どうしてウェールズが会場に全く姿を現さなかったのかしら?」 窓を少し開け、双月が輝く星空を見上げながらワインを飲むロングビルは、当然の疑問 を口にした。 干し肉をかじるルイズも、うーむ~と呻る。 「そこなのよねぇ、分かんないのは。王党派の残存勢力をレコン・キスタに吸収するため にも、速やかにレコン・キスタの支配を国中に行き渡らせるためにも、レコン・キスタが 旧支配者である王家から認められた存在と示すためにも、皇太子の存在を国中に知らしめ なきゃいけないはずなの。 なのに、皇帝と一緒に歩いてるのを見たとかばっか。まるで幽霊みたいな扱いって、一 体どういう事なのかしら?」 壁に立てかけられたデルフリンガーも頭を捻る。どこが頭なのか、誰にも分からなかっ たが。 「う~ん、隠すんなら牢屋にでも閉じこめりゃいいし、隠さないなら堂々とすりゃいいの にな…やっぱ剣のおれにはわかんねぇな。ヤンよ、どう思う?」 尋ねられたヤンは、以前デルフリンガーと一緒に武器屋で買ったナイフでリンゴをむき ながら、のんびりと考えを示した。 「考えられるのは、いくつかあるよ」 ルイズもロングビルも、グッと前のめりになる。 「ウェールズ皇太子の状況は、つまり公の場に出れる状態じゃない…という事じゃないか な。つまり、レコン・キスタに本心から恭順していない、とかいうこと」 ルイズがポンッと手を打つ。 「あ、なるほどね!つまり、皇太子は脅されて無理矢理引きずり回されてるんだ!」 「うん、それもあるんだけど…」 むき終えたリンゴを切り分けて、ルイズとロングビルに配りながら、話を続ける。 「そこまでするかどうか分からないけど、洗脳。例えば、『誓約(ギアス)』という禁じら れた魔法があるらしい」 『誓約』という言葉に眉をひそめつつも、ロングビルが頷く。 「確かに、大昔に使用が禁じられた魔法ね。でも、もし『誓約』がかけられたら、眼を見 れば分かるらしいわ。魔法の光が宿るらしいから」 ルイズは頷きつつも、推理を続ける。 「ということは、『誓約』をかけたのがバレたら困るから、大勢の前には出せない…とか かしら?」 ヤンもリンゴを頬張りながら頷く。 「そういう類の話だと思う。他にも魔法じゃなく、薬物を使用したとか、いっそソックリ さんの偽物だとか、変装魔法『フェイス・チェンジ』を使ったとか、かな。 薬物を使われると厄介だなぁ。魔法じゃ探知出来ないし、ハルケギニアの医術や薬学で は洗脳を立証する事が出来ないよ」 「それだけなら、まだいいんだけどねぇ…」 ロングビルは、ワインでリンゴを流し込んでから言葉を続ける。 「実は、この食べ物を買いに行った時、街で妙な噂を聞いたのさ」 「噂?」 最後のスコーンを口に放り込んだルイズも、ナイフを布で拭くヤンも、双月の光で長い 緑の髪を煌めかせる女性へ注目する。 「クロムウェルの系統は、『虚無』」 瞬間、ルイズの目が見開かれた。 ヤンも信じられないという表情でロングビルを凝視する。 「ほ、本当かい!?」 聞かれた彼女は肩をすくめる。 「さぁね、なにせただの噂だよ。 しかも突拍子もない物さ…あの皇帝は死者を蘇らせる、とか言うんだよ?その力を持っ てレコン・キスタの貴族議会で総司令官に、そして皇帝に選ばれた、とね」 ルイズは驚愕の表情から、だんだん胡散臭げな表情に塗り替えられていく。 ヤンは腕組みして考え込む。 「死者の蘇生…そんな魔法あるのかい?」 ルイズが拍子抜けしたように、呆れたように答える。 「あるわけ無いでしょ。いくら伝説の『虚無』でも、突拍子が無さ過ぎよ」 「あたしもそう思うんだけどねぇ。で、デルフリンガーはどう?そういう魔法に覚えはあ るかい?」 と、問われたデルフリンガーの答えは、いつもと同じ。 「覚えてねぇなぁ」 予想通りの回答に、一同溜め息をついてしまう。 頭をボリボリ掻きながら、ヤンは推理を続けた。 「確かに『虚無』の線は薄いかもしれないけど、全くあり得ないワケでもないよ。君の妹 さんの例もあるし」 ティファニアの事を挙げられ、ロングビルも考え込む。 「今のところ、僕らは『虚無』について全くの無知だからね。最悪、ウェールズ皇太子す らも死体を魔力で動かした操り人形…という事も考えないと。 ただ、それだと僕はお手上げだなぁ。魔法は全くの専門外だよ」 「さすがに、そこまではないだろうけどね…」 ルイズもロングビルも、それぞれに推理を進める。デルフリンガーは、合いの手を入れ たりしながら聞き役に徹していた。 そんな彼等の姿を、特に窓の隙間から覗くロングビルを見つめる黒装束の姿がある。そ の人物は通りを挟んだ民家の屋根の上で、身を伏せたままルイズ一行の部屋の様子をうか がっていた。 しばらくして、黒装束は音もなく飛び去った――ハヴィランド城へ向けて。 ハヴィランド城、天守。 そこは城の主、オリヴァー・クロムウェルが執務室として使用していた。 「報告、以上であります」 「うん!ご苦労だったね!いやぁ、お疲れ様、下がって良いよ!」 黒装束の人物は、部屋の主に対し報告を終えて退室した。 報告を受けたのは30代半ばの男。高い鷲鼻に理知的な碧眼、カールした金髪を持ち、 豪奢な衣服とマントを纏っている。現在は神聖皇帝クロムウェルと呼ばれている。 そして皇帝の背後には、ローブをすっぽりと被った痩身の女性が立っている。 「聞いたかね?ワルド君!いやぁ、驚いたよ。まさか、マチルダ・オブ・サウスゴータを 発見するとはねぇ!念のため調査してみて大正解だ!!」 そしてデスクを挟んだ皇帝の眼前には、ワルドが立っていた。 鷹のように鋭い眼光が虚空を見上げる。 「サウスゴータ…たしか、4年前のエルフ事件で、モード大公投獄の際に新教徒狩りが行 われたという…」 「そう!そこの太守の娘だよ。ま、実際はもう少し複雑な事情があったんだがねぇ。昔の 話さ! 彼女は確か、土のトライアングルだったはずだよ。我らレコン・キスタの側に引き込め れば、非常に心強い味方になってくれるに違いない!さっそく接触を取るとするかな、う ん!」 「土のトライアングル!?」 マチルダが土のトライアングル。 この言葉を聞いた瞬間、ワルドの眼光が鋭さを増した。しばし顔を伏せ思索にふける。 しかる後、口の端が釣り上がり、唇の隙間から押し殺した笑い声が漏れだした。 皇帝が不審そうに目の前のトリステイン貴族を覗き込む。 「どうか、したのかね?」 尋ねられたワルドは、まるで長年の難問が解けたかのように晴れ晴れした顔で答えた。 「マチルダ・オブ・サウスゴータ。現在はトリステイン魔法学院学院長の秘書…そして、 恐らくは『土くれのフーケ』ですな」 その言葉に神聖皇帝も、背後の秘書も驚きの声が漏れる。 「間違い、ないのかね!?」 重ねて問う皇帝に、ワルドは自信を持って推理を示した。 トリステインで最近、王宮前で『ダイヤの斧』、魔法学院で『破壊の壷』と、立て続け に二件のフーケによる犯行が行われた事。だが即座に両方とも、森の中の廃屋で無事に発 見された事。トリステイン王宮でも事件の真相を調べたものの、何故無事に取り戻せたか 分からなかった事。 以上の事実をワルドは語った。 「私も捜査記録の詳細を見ましたが、その時は謎を解けませんでした。ですが…ロングビ ルがマチルダでありフーケなら、全ての説明が付きますな。 彼女は、恐らくは私の婚約者ルイズの使い魔であるヤン・ウェンリーの、情婦なのです よ。現に、今も危険を冒してまでヤンと共にロンディニウムに来ています。惚れた男に盗 んだ物を返したのです。 物証はありませんが、まちがいありますまい」 ワルドの推理を聞かされた皇帝は、少し呆気に取られていた。 そしてすぐに、「ぉ、おお、おお!」と感激の言葉を漏らしながら椅子を蹴倒し、ワル ドへ駆け寄り、彼の肩を力強く叩いた。あまりのオーバーリアクションに、さすがのグリ フォン隊隊長も圧倒されてしまう。 「す、素晴らしい!本当に、これは大手柄だよ!まさか、フーケを逮捕出来るなんて!わ が神聖アルビオン共和国最初の偉業としてハルケギニア全土に知らしめる事が出来るじゃ ないかっ!」 「閣下のご威光、さらに燦然と輝きますな」 と、皇帝のフーケ逮捕案に同意したワルドが、ふと首を傾げた。 「ですが…少々お待ち頂けませんか?」 「ふむ?何を待つのかな?」 「ここは一つ、私に任せては頂けませんか?」 「ほほぅ、何か妙案でもあるのかね!?」 「ええ、実は、ですね。そのヤンという男の事なのですが」 「ああ、君が報告してくれた、我らの策を見事に看破してくれた平民使い魔の事かい?」 ヤンの名を改めて出したとたんに、皇帝の精神衛生レベルは最高から最低へ一気に落ち 込んだようだ。 ヤンは2週間前、『アンリエッタ王女の恋文』事件を解決に導いた。というより、うま く王女を誘導して『ルイズ達に手紙を回収させる』という暴挙を回避した。おかげでトリ ステインとゲルマニアの同盟は、手紙の政治的処理を通じ強固となり、逆にレコン・キス タは文書偽造の濡れ衣をかけられた。 それに、もしルイズがアルビオンに潜入していれば、流れ矢にでも見せかけて亡き者と し、ヴァリエール公爵に叛旗を翻させる事も出来たかもしれないのだ。 10日ほど前に枢機卿へ進言した『姫の婚儀に出席する大使を乗せた親善艦隊に警戒す べし』というのも、見事に皇帝の策を看破したものだった。皇帝はトリステイン戦艦から の親善艦隊への攻撃を自作自演にて偽装するつもりだったのだから。10日後に派遣する 親善艦隊対して、どの程度の警戒をしてくるかは不明ながら、他の策を講じる必要が生じ たのは確かだ。 皇帝は彼の知略には感心した。が、ただの平民に軽くあしらわれたかのような不快感、 現在の肥大化した皇帝の自我には耐え難い物だ。 「ええ。かのヤンという男、先月トリステインに使い魔として召喚されたばかりです。ゆ えに、王家への忠義とかトリステインへの恩義とは無縁です。実のところ、他に行くあて もないからルイズの下で執事役に甘んじている…というところでしょう。 いえ、むしろ、あれ程の知謀の持ち主が単なる執事役で満足しているとは思えません。 また、先日の王女の手紙の件…捨て駒にされかかった彼は、トリステイン王家への不快感 すら抱いているでしょう」 顎に手を当てながら聞いていた皇帝は、フンフンと満足げに頷き続ける。 ヤンが実は『帰郷を泣く泣く諦め、立身出世に興味はなく、学院でルイズの執事として ノンビリ暮らしたい』と考えてるのは、さすがにワルドにも思い至らぬ点だ。だが、それ 以外は大体正解に達していると言えるだろう。実際、ヤンは内心でアンリエッタを「ラフ レシア」と評したくらいだ。 「故に、彼はアルビオンにて、我らレコン・キスタに力を貸す事に抵抗は無いでしょう。 彼ほどの人材、参謀としてでも側近として加える事が出来れば、我らの悲願は更に容易に 実現できます。 いえ、むしろ彼を重用する事で『平民でも力と功あれば報いる』と天下に知らしめる事 も出来ます。かのゲルマニアの如く、平民達の支持も得やすくなり、更に国力を伸張でき ます」 室内をクルクル歩き回りながらワルドの話を聞いてた皇帝は、最後にポンッと手を打っ た。 「そして!うん!かの平民使い魔の主は、君の婚約者ルイズ…というわけだね!」 「左様。彼女と結婚すれば、ヤンも自然とついてくる事でしょう」 「そして、彼の情夫であるマチルダも、だね!?土のトライアングルであり、『土くれの フーケ』として名をはせた大盗賊も、我らの同士となってくれるわけだ!!」 「御意。父君の名誉回復とサウスゴータ太守の地位を示せば、かの大盗賊も納得すること でしょう」 ワルドは、薔薇色の未来像に思いをはせる皇帝へ、恭しく頭を垂れた。 ここで、これまで部屋の隅でずっと黙って話を聞いていた秘書が、うん!うんうん!と しきりにワルドの策へ肯定の意を示し続けている皇帝へ耳打ちした。 「…ん?なんだね、シェフィールド君…ふんふん、ああ!なるほどね、うん。それはいい! 相変わらず君は聡明だなぁ!」 急に秘書と内緒話を始めた皇帝に怪訝な視線を向けるワルドに、話を終えた皇帝が、輝 くほどに明るい笑顔を向けた。 「君の策に乗ろうじゃないか!ミス・ヴァリエールとの婚儀、見事成立させたまえ!もち ろん協力は惜しまない! かつて僧籍に身を置いていた者として、若い君たちの門出!今から始祖ブリミルの名の 下に祝福させてもらうよ!」 「はい。あの愛らしい姫君と、幸せな家庭を築く事を約束致します」 再び深く頭を垂れたワルドの顔は、純粋な言葉とは裏腹に、邪気をはらんだ笑みに歪ん でいた。 「そして、こちらでも別の策を講じるとしよう!ついては君に一つ頼みがあるのだが」 「はい。閣下の御為ならば、なんなりと」 皇帝とワルドの密会は、その後も深夜まで続いた。密会終了後、ワルドは誰にもその姿 を見られることなく、風のように自室へと戻った。 次の日の早朝。 ルイズ達はスカボローから乗ってきた馬と荷馬車を二束三文で売り飛ばし、ハヴィラン ド宮殿で将軍が貸してくれた風竜に乗り込んだ。 急速に眼下へ小さくなるロンディニウムの街並み。森林を飛び越え、一気に後方へ遠ざ かっていくアルビオン大陸。 ルイズは若く逞しい竜騎士のすぐ後ろで、雲の合間に見えてくるはずのハルケギニア大 陸を探している。その胸にはデルフリンガーが抱かれ、話し相手になっていた。ロングビ ルはヤンの左で、同じように遠ざかるアルビオン大陸を眺めていた。ウエストウッド村の 妹を想い、故郷に後ろ髪をひかれているのかもしれない。 どう考えても浮遊している理由が分からない大陸を眺めながら、ヤンは今までの事や自 分の立場について思い返す。 かつて自分は星の海を巨大な鉄の船で渡っていた。 意に反して軍人として功績を重ね、望まぬ出世を重ねていた。 出来すぎな程の養子と美しい妻、そして有能で楽しい部下に囲まれていた。 民主共和制を守るため、圧倒的不利な戦況で戦いを重ね、どうにか負けなかった。 苦難の末、皇帝ラインハルトとの和平交渉にまでこぎ着けた所で、暗殺された。 そう、そのはずだ だが、今はどうだ 自分は雲の間を風竜で渡っている。 意に反してルイズに使い魔として召喚され、執事として雇われている。 背後のルイズと左のロングビル、そして学院の平民達や貴族の子弟達に囲まれている。 トリステイン王国を守るため、アルビオンで情報収集をしている。 そしてこれからタルブでシエスタと合流しようとしている。 一体、どっちが正しい自分なのだろうか いや、本当に自分は、自由惑星同盟にいたのだろうか? もしや…全ては召喚された際にすり込まれた偽りの記憶ではないのか!? 生死の境を彷徨った時に見た、ただの妄想ではないのか? 妄想?偽りの記憶?・・・どっちが!? ヤンの背に冷たい汗が流れる。 慌てて上着の中の銃に手を触れた。自分と共に召喚された、ハルケギニアでは絶対にあ り得ない技術で作られた、引き金を引くだけでエルフすら難なく殺せるブラスターを。自 分の召喚前に関する過去が偽りのものでないと確かめるために。 上着の中に、確かにブラスターは存在した。ヤンの体温で暖められた、そして硬い感触 が指先に触れる。同時に左手のルーンが光だすのが分かる。士官学校以来、気にした事も ないはずのブラスターの構造と使用法が頭の中に流れ込み、身体が羽のように軽くなるの が分かる。 どちらも、本当の記憶だ。 ヤンは頭を振り、脳裏に浮かんだ不安を追い払う。だが、自分自身に対する疑念は、ま るで影のように付きまとう。 ふと彼の左肩に、何かが触れた。 左を見ると、左肩に長い緑の髪がかかっている。 ロングビルがヤンの肩に頭を乗せていた。 左腕で細い肩を抱き寄せる。 フレデリカを愛してる。 でも、今はマチルダの肩を抱いている。 僕は…どうすればいいんだろう ヤンの頭に浮かぶのは、オリビエ・ポプランとワルター・フォン・シェーンコップ。二 人はイゼルローン要塞では女好きの双璧で、関係を持った女性の数は「いちいち覚えてい ない」とか、ベッドの上の撃墜王とか言われていた。 彼等を頭に浮かべたものの、彼等がどうして複数の女性と関係を持つ事が出来たのか、 は思い浮かばない。ヤンの頭脳は、その方面の策略には全く向いていなかった。 ヤンが人類発祥以来の決して解けぬ問に頭を悩ましていると、背後のルイズが声を上げ た。 ヤンとロングビルも風竜が向かう先を見る。そこには緑の海が広がっていた。広大な草 原が陽光に輝き、駆け抜ける風が波のように草花の上を渡る。草原の彼方にある山の斜面 には、規則的に並んぶ背の低い樹木が見える。ワインが特産と言うだけあり、ブドウ畑が 広がっている。 風竜は草原を越え、村の上空をしばらく旋回してから、律儀に村の入り口へ着陸した。 「では、小官はトリスタニアへ帰還致します!」 ビシッと敬礼する竜騎士へ、ルイズは礼を言いつつ2通の封書を手渡した。 「これは枢機卿と父さま、ヴァリエール公爵への手紙です。急ぎ届けて下さい」 「はっ!」 竜騎士は、ルイズ一行がアルビオンで収集した事実をしたためた報告書を入れた封書を 胸に風竜へ飛び乗った。もちろん、ウエストウッド村やティファニア等に関しては除いて ある。 ルイズとロングビルは、飛翔する風竜へ手を振った。 「おーい、ヤンよ。なにをボーッとしてんだ?」 風竜から降ろされた荷物の上のデルフリンガーが、立ちつくすヤンを不審がる。 遠くの空へ消えていく竜騎士を見送った二人も、村の入り口で突っ立ってるヤンに気が 付いた。 彼は、村の入り口に立つ立て札をジッと見ている。 ルイズは彼の背をツンツンつつく。 「ちょっと、ヤン。何ぼんやりしてるのよ?」 何の反応もない。立て札に見入ったまま動かない。 ロングビルも立て札を見る 「これがどうかしたの?…えっと、『ようこそタルブへ』。それと、その下に、何か書いて あるわね・・・え…え?えっ!?」 ロングビルも、まるで幽霊を見たかのような表情で看板を凝視した。 「なによ二人とも、この立て札がどうかしたの?」 と言ってルイズも読む。そこには確かに『ようこそタルブへ』という文が記されてた。 ただし、その下にもう一文が記されている。 「何これ、なんて書いてあるの?読めないわよ…て、え…ま、まさかっ!?」 ルイズの目がまん丸に見開かれ、両手が口を覆う。 3人の背中が邪魔で看板が読めないデルフリンガーが、抗議の叫びを上げる。 「おーい!一体なんなんだよ?何が書いてあるんだよ!」 長剣の問に、ヤンは震える声で答えた。 「『ようこそタルブへ 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』」 「は?道に迷ったって…道案内の看板か?」 伝説の剣には、何のことだか分からなかった。 左右からヤンを見る女性達にも、何の事だか分からなかった。 ただ、それがあり得ない文だというのは、一目で良く分かった。 何故なら、それは二人には読めないが、ヤンには読める文字だったからだ。 「・・・何で、なんでこんな所に、この文字が・・・」 それは、『破壊の壷』表面に記されていた文字であり、ヨハネス・シュトラウスの手記 に使用されていた文字だった。 つまり、銀河帝国の公用語。 第十七話 昔と今と END 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページ日替わり使い魔 ――ルイズは夢を見ていた。 フェオの月第三週、エオローの週第二曜日、ユルの曜日。春の使い魔召喚の儀式に臨む彼女は、期待に胸を膨らませていた。 魔法が使えず、何を唱えても失敗して爆発ばかり。挙句についた二つ名は『ゼロ』。魔法成功率『ゼロ』のルイズ。いくら座学が優秀でも、いくら貴族としての礼儀作法を完璧に修得しても、魔法が使えなければ貴族足り得ない。 無論、そんな彼女を認めてくれる者は、どこにもいなかった。 だが、それも今日まで。自分は今日、使い魔を召喚するのだ。 メイジを見る時は使い魔を見よ――その格言が示す通りならば、召喚した使い魔が強大であれば、それすなわち自身の才能の照明となるのだ。 ならば、誰もが認める使い魔を召喚できれば、自分は『ゼロ』ではなくなる。馬鹿にされ続けていた惨めな日々は、もう終わるのだ。 果たして、彼女が呼び出した使い魔は―― 「やった……やったわ……!」 その使い魔を見て、ルイズは感動に打ち震えた。それは一言で言えば、亜人であった。 青い肌の筋肉質な上半身に乗っかっているのは、立派な髭をたくわえた歴戦の兵士もかくやといった厳つい顔だった。だがその頭からは山羊の角が生え、下半身は紫の毛並みの雄牛。その上、背中からはドラゴンのような翼が生えている。 呼び出された亜人は、バトラーと名乗った。バトラー……執事か。公爵家の三女の使い魔になるのに、なんと相応しい名前だろう。 その使い魔を見て、周囲からも驚きの声が上がる。 「すごい! ルイズがとんでもない使い魔を召喚したぞ!」 「もう『ゼロ』なんて呼べないわね! おめでとう、ルイズ!」 「ふふ……負けたわ、ヴァリエール」 「さすが」 彼らは――仇敵のツェルプストーや、普段口を開かない青髪のクラスメイトすらも、「すごい」だの「さすがだ」だのと口々に褒め称え、喝采を上げた。 そうだ。これでもう『ゼロ』じゃない。これから私の、栄光に満ちた偉大なるメイジとしての道が、始まるのだ。 「ありがとう……みんな、ありがとう……!」 ルイズは涙を流し、自分を褒め称えてくれるみんなに感謝した。 だが――ルイズは気付く。 そのクラスメイトの中に、青紫色のボロを身に纏った、どこかで見覚えのあるような平民が混じっていることを。 彼はにこやかに笑い、口を開いて―― 「ザメハ」 それはなぜか男の太い声ではなく、鈴を鳴らしたような可憐な女性の声であった。 「ひゃうわっ!?」 いきなり眠気の一切が吹っ飛び、ルイズは素っ頓狂な声を上げて布団から飛び起きた。 「あ、起きたねルイズ」 「失われた古代の目覚めの呪文、成功したようですわね」 「ああ。これで明日から、子供たちを起こすのも楽になりそうだ」 「いやですわ、あなたったら。楽することばっかり」 「え!? え!?」 横から聞き慣れない男女の声が聞こえ、ルイズはわけがわからないままそちらに顔を向けた。 するとそこには、青紫色のボロいターバンとマントに身を包んだ、いかにも平民っぽい黒髪の男。そしてその隣に、小奇麗な白いドレスを着た、いかにも淑女といった物腰の青い髪の美女。腰には杖を差している。 美女の手には、ボロボロになった古ぼけた本があった。何かの古文書だろうか――いやそんなことより。 「だ、だだだだ誰よあんたたち!?」 「いや誰って……昨日、君に召喚された使い魔のリュカだけど」 「へ? いや、私の使い魔はもっとこう……」 そうだ。確か、もっと立派な使い魔を召喚し、みんなから拍手喝采の嵐……あれ? そうだったっけ? リュカの言葉に、ルイズは直前まであった記憶が急にあやふやなものに感じた。そういえば、みんなに認められるほどの使い魔と言うが、何を召喚したんだかよく覚えてない。ドラゴンだったような、亜人だったような…… 「もしかして……夢?」 「すっごく幸せそうな寝顔だったんで、起こすのが悪い気がしたんだけどね」 「ああああ……」 申し訳なさそうなリュカの言葉に、ルイズはようやっと現実に引き戻された。 始祖様ステキな夢をどうもありがとう。彼女はベッドの上でがっくりとうなだれ、呪詛を吐くような気分で始祖に感謝の言葉を贈った。 「あ……」 と――そこで彼女は、急速に思い出されてきた昨日の記憶と共に、一つの疑念が心中に浮上してきた。 彼女はガバッと顔を上げ、本物の自分の使い魔――リュカを見上げる。 「そうよ! あんた! 昨日の! 昨日のアレ! い、一体何!?」 「昨日の?」 「帰るとか言って、突然消えてっちゃったアレよ! 何なのよ、アレは! 見たことも聞いたこともないわよ!?」 「ああ、ルーラね」 問い詰められ、リュカは大したことでもない様子で頷いた。 「あれは移動用の呪文で、一度行ったことのある町や村とかに、一瞬で行き来できるやつなんだけど……こっちには、そういうのないの?」 「え……何その便利魔法? もしかして、先住魔法?」 「先住魔法ってのが何なのかわからないけど……あ、そういえば忘れてたけど、これって失われた古代呪文だったんだっけ。まあどのみち、こっちの呪文とハルケギニアの魔法とは体系が違うみたいだから、ルイズが知らないのも無理はないか」 「…………」 リュカの説明に、ルイズは開いた口が塞がらない。魔法の体系が違うということは、話半分に聞いていたとはいえ、昨晩話してもらったことなのだが――まさか、ここまで異質な魔法まで存在するようなものだとは、思っていなかった。 疑うにも、昨晩実際に目の前で見せられたこともある。まあ、とりあえずカラクリがわかったのであれば、何も言うまい――興味はあるので、後できっちり話は聞かせてもらうが。 「と、とにかく――リュカ!」 ルイズは気を取り直すため、コホンと一つ咳払いした。そしておもむろに、ビシッ!とリュカに指を向ける。 「昨日も言ったけど、あんたは私の使い魔なの! もう勝手にいなくなるのはダメ!」 「そんなこと言っても、僕にも仕事が」 「口答えを許した覚えはないわよ!」 「えー」 主人の威厳を示そうと、厳しくリュカを縛ろうとするルイズ。そんな彼女に、リュカは困ったような様子で頭を掻いた。 と―― 「まあまあ……そう興奮なさらないで」 そこで横から、それまで黙って二人のやり取りを見ていた女性が、割って入ってきた。 ルイズはそこでようやっと彼女の存在を思い出し、訝しげな視線を向ける。 「そういえば、聞くの忘れてたけど……あなた、誰?」 少なくとも、平民ではなさそうである。だが、貴族の女性がこんな早朝に自分の部屋に、しかも使い魔の平民と一緒にいる理由がわからない。 しかしルイズのその問いに、女性は何ら臆することなく、スカートの両端をつまんで優雅に一礼すると―― 「初めまして。私、リュカの妻のフローラと申します。今日は多忙な夫に代わり、一日あなたの使い魔を代行させていただくことになりました。よろしくお願いしますね、ルイズさん」 「……………………はい?」 その丁寧な自己紹介で告げられた内容を、しかしルイズはすぐに理解することができず、たっぷり十秒ほどの間を空けた後で間の抜けた声を上げた。 ――その後、ルイズはフローラに着替えを手伝ってもらった。 リュカは、フローラによって部屋から追い出されている。 ルイズとしては彼に手伝わせるつもりだったのだが、まあ確かに召使い――もとい使い魔とはいえ、男にやらせることではないかもしれない。こういうのは通常、召使いに手伝わせるにしても、同性にやらせるものなのだから。 (ってゆーか、何この夫婦? わけわかんない……) 夫の方は、平民でもここまでみすぼらしくはないだろうと言うほど、汚らしいボロを身に纏っている。かなり年季の入ったその身なりは、どれほど長い間風雨に晒されていたのか、ルイズには想像もできない。 その一方で、妻の方は至って綺麗なものであった。服装は元より、その容姿さえもが可憐で美しい。物腰も優雅で育ちの良さを伺わせ、どう見ても貴族にしか見えないほどである。 そんな二人を『夫婦』という等号で結びつけるなど、ルイズにはとても無理なことであった。いくら本人たちにそう言われたからとて、簡単に信じることなどできない。からかわれたと思った方が、まだ納得できる。 が――たったの二言三言とはいえ、仲睦まじく会話を交わすその姿には、とても割り込めないものを感じた。 それが芝居によるものか、本物の恋愛感情によるものかなど、まだ生まれて十六年しか生きてない――しかも恋愛経験など皆無の――ルイズには、到底わかりようもないことであった。 「…………知恵熱出そう」 「はい?」 「ううん、なんでもないわ」 「そうですか? はい、これで終わりです」 フローラに言われて自分の体を見下ろすと、なるほど確かに着替えは終わっている。なかなかの手際であった。 その後部屋を出たら、そこで待っていたリュカが何をしていたかというと―― 「うん。確かになかなか格の高そうなモンスターだね」 「そうでしょう? 違いがわかるのね、あなたって」 「まあ、これでも魔物に対してはちょっとした目を持ってるし」 「あら。面白いこと言うのね、あなた」 などと、ルイズの仇敵たるキュルケと、使い魔をダシにして戯れていた。 それを見て、ルイズは当然―― 「何をやってるのよ、あんたはーっ!」 「おぐぅっ!?」 ――額に青筋を浮かべて叫び、リュカの股間を背後から問答無用で蹴り上げた。 自身の『切ない部分』を蹴り上げられ、リュカは顔を青くして悶絶する。 「あらあら。元気ですわね、ルイズさんは」 悶絶する夫を見ても顔色一つ変えず、フローラはそう言ってほほ笑んだ。 そんな視線の向こうでは、フレイムが仲間になりたそうに倒れたリュカを見ていた。 ――それからリュカは、ルイズが怒鳴りながら必死に引き止めるも、のらりくらりとかわしてルーラで帰って行ってしまった。 その際彼は、「夜には迎えに来るから」と言ってフローラを抱き寄せて口付け――いわゆる『いってきますのキス』をし、傍で見ていたルイズとキュルケに砂糖を吐かせたものである。 「うわ……いくらなんでも、人前で惜しげもなくやる?」 「微熱どころの熱じゃないわね……はいはい、ごちそーさまごちそーさま」 ちなみにそのせいで、キュルケは使い魔ネタでルイズをからかうのを忘れてしまったのだが……まあそれはどうでも良いので割愛。 その後キュルケと別れたルイズは、「自分の使い魔の妻」という微妙な立場の女性と共にアルヴィーズの食堂で朝食を摂った。 動物や幻獣などの使い魔を期待していた彼女は、自分の足元で使い魔に餌をあげるという光景を夢想していたものだが、さすがに淑女然としているフローラ相手にそんなことはできない。 見た目貴族っぽい雰囲気を持つ彼女にそんなことをしたら、自分の品位が疑われる。そんなルイズの心境も知らずに「美味しいですね」とほほ笑むフローラに、ルイズは引き攣った笑みを返すしかできなかった。 ――そして、教室―― 「あらあら」 ルイズと共に入るなり、フローラは目を丸くして驚いた。先ほど目にしたキュルケのサラマンダーを筆頭に、バグベアー、スキュアなど、魔物にしか見えないものが数多くいたからだ。 「普通の小さな動物さんもいっぱいいらっしゃるんですね……ルイズさん、もしかしてこの子たち全部?」 「ええ。使い魔よ」 「まあ……」 フローラの問いに短く答えたルイズの言葉に、彼女は感嘆の声を上げた。 その後、ちゃんとした使い魔を呼べなかったルイズに野次が飛ぶ――かと思いきや、彼女と一緒にやってきたのは昨日の平民の使い魔ではなく、マントこそ着用していないものの、杖を持つ貴族のような物腰の女性。 これにはさすがにどう野次を飛ばしたら良いのかわからず、クラスメイトたちは大いに戸惑った。そんな彼らに、フローラは優雅に一礼して本日三度目となる自己紹介をすると、周囲に更なる喧騒が巻き起こる。 ちなみに二度目の自己紹介の相手であったキュルケは、興味深そうに様子を見ているのみだ。 (……私だって、どうしたらいいのかわかんないわよ!) その渦中にいるルイズは、そんな周囲の戸惑いを敏感に感じ取り、胸中で叫びを上げた。 そんなルイズの心境を知ってか知らずか、フローラは彼女に疑問を投げかける。 「あの、ルイズさん……見たところ、ここにいる人間は全員メイジのようですが、もしかして人間の使い魔っていないのですか?」 「そんなのいるわけないでしょ。普通は人間以外のものが召喚されるものなのよ。ったく、もう……私だって平民なんかじゃなくて、もっと皆の注目を独り占めできるようなすっごい使い魔を召喚したかったわよ……」 「注目を独り占め、ですか? 今がまさにそうだと思いますけど」 「これは違うの! 私が欲しかったのは、こんな注目じゃ……はぁ、もういいわ」 からかってるのか本気なのかいまいちわからないフローラのコメントに、ルイズはため息をついて自分の席へと向かった。 フローラはその後ろについて行き、ルイズの隣に腰掛ける。あからさまに落胆の色を見せる彼女を視界に収めながら、彼女はぽつりとつぶやいた。 「皆の注目を独り占めできるような使い魔……ですか」 すぐ隣にいるルイズにさえ聞こえないぐらいの小さなつぶやきの後、彼女は「んー」と考え込んだ。 ――やがて授業時間を迎え、教室に女性教師が入ってきた。 彼女は『赤土』のシュヴルーズ。教壇に立つと生徒たちをぐるりと見回し、使い魔たちの姿を確認するとにっこりとほほ笑む。そして社交辞令的な挨拶を終え、フローラに目を留めると、彼女による四度目の自己紹介がなされた。 シュヴルーズも生徒たち同様に驚きはしたが、人間の使い魔を召喚したとなればそういうことも有り得るとでも思ったのか、さほど大袈裟な態度は取らなかった。 授業が始まると、フローラは熱心に授業を聞き始めた。 リュカは「自分の住んでいる場所とは魔法の体系が違う」と言っていたが、彼女はその違いに興味があるのだろうか? 時折ルイズに質問しながら、ふんふんと頷きつつ聞き入っている。 「ルイズさん、トライアングルとかスクウェアとかって何ですか?」 「それはね……」 フローラの質問に、ルイズは律儀に答える。 四つの系統、足せる属性の数、それによって決まるメイジのランク――その説明に、フローラはあからさまに瞳を輝かせた。 「……ということよ」 「そうなんですか……なかなか興味深いですわ」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」 が――そんな会話をシュヴルーズは聞きとがめた。 そして彼女は、罰としてルイズに錬金魔法の実践を命じ――しかしそれは、教室中の生徒の反対の嵐を受けることとなる。 だがそれは、かえってルイズの対抗心に火をつける結果になってしまった。彼女はムキになってシュヴルーズの指示を承諾し、教卓の上に置かれた石に向かい合った。 ――後の結果は、大方の予想通りである。 ルイズの起こした爆発に教室はパニックとなり、阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がってしまった。 その中心で、騒ぎの元凶とその使い魔代理はというと―― 「ちょっと失敗みたいね」 「とても見事なイオでしたわ」 まったく悪びれもせずにズレたコメントを残していた。 「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 「ってゆーかイオってなんだよ!?」 教室中からのツッコミの声が木霊した。 「「…………」」 誰も居ない教室の中、ルイズとフローラは黙々と片付け作業を進めている。 あの後、息を吹き返したシュヴルーズによって教室の片付けを命じられ、フローラと共に作業をしているところだった。魔法を行使しての作業を禁じられたが、元より魔法の使えないルイズには関係のないことである。 「……はぁ」 「どうかしましたか?」 「なんでもないわよ」 思わずこぼれたため息に、フローラが心配そうに声をかけた。だがルイズは、持ち前のプライドの高さから、その気遣いを跳ね除ける。 「ルイズさんって、凄い才能を持ってるんですね」 「……何言ってるのよ? 嫌味?」 「違いますよ」 訝しげに眉根を寄せるルイズに、フローラはにっこりと笑みを向けた。 「お尋ねしますけど、系統魔法って失敗したら爆発するものなのですか?」 その問いに、ルイズは首を横に振った。 普通は、失敗すれば発動しないものである。詠唱も間違ってないのに、発動するのは爆発のみ。失敗と一言で片付けるには、その現象は異常に過ぎた。 無論、彼女の周りの人間も、ただ何も考えずに失敗と決め付けていたわけではない。 他に例を見ないその現象を解明し、ルイズが魔法を使えるようになるため、父も、母も、姉も、そしてこの学院の一部教師も、書物を漁った時期があった。 が――皆は既に匙を投げてしまっている。諦めていない者は今はもう、ルイズ本人を残すのみであった。 「ルイズさんはきっと、自分の力の使い方を見つけてないだけだと思いますわ」 しかしそんなルイズに、フローラは笑みを崩さないままそう言った。 「私も魔法を使う者ですのでわかるのですが、さっき爆発を起こした時、凄い『力』の流れをルイズさんの中から感じました。 こっちの魔法の法則はまだよくわかりませんが……私が思うに、あれはたぶん、あなたの『力』が唱えた魔法の法則に収まりきらずに起こった――いわゆる暴発に類するものなんじゃないかと思います。 その杖についた手垢を見れば、ルイズさんが今まで、どれほど努力してきたかわかりますわ。でも、こっちの魔法に明るくない私では、ルイズさんの悩みを解決するだけの知識は持ち合わせてません。 ですが……あなたの中に、誰にも負けない才能が眠っていることだけは、間違いないと断言できます。 その才能が開花する時は、いつか必ずやってくるでしょう。それはもしかしたら、ルイズさんが望んだ形ではないのかもしれませんが……その才能は、ルイズさんが今まで積み重ねてきた努力に、きっと応えてくれるはずです」 そこまで言って、フローラは「だから、諦めないでくださいまし」と締め括った。 「あ、当たり前でしょ。誰が諦めるもんですか」 そんなフローラの励ましに、ルイズはそっぽを向いて唇を尖らせた。 が――そんな素っ気無い態度を取られたフローラは、しかしルイズが今どんな表情をしているかを悟り、くすりと微苦笑を漏らした。 「あらあら。褒められるのに慣れてないんですのね」 「うっさいわよ」 ルイズのその返答は、フローラの笑みを崩す効果足りえるものにはならなかった。 一方その頃グランバニアでは、リュカが王族としての正装に身を包み、チゾットの村長と会談するべく護衛を伴って山を登っていた。 魔物もいるにはいるが、大魔王が倒れて邪気が世界を覆うこともなくなったため、いたって大人しいものである。彼らは基本的に人前には姿を現さず、人とは関わらずにひっそりと暮らすのみだ。 ――そのはずなのだが。 「えっと……」 リュカがひとたび物陰に視線を向けると―― ――ミニデーモンが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「……」 メッサーラが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「…………」 はぐれメタルが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「……………………」 メイジキメラが(ry ベロゴンロードが(ry 「…………………………………………」 おかしい――明らかにおかしい。 いくら世界を覆う邪気がなくなったとはいえ、こうまで簡単に懐かれることは、今までなかった。しかも懐く可能性がない魔物まで、好意的な視線を送ってきている。そもそも、戦闘すらしていない。 「……『ひとしこのみ技』は使ってないはずだけど」 なにげにメタなことをつぶやき、しきりに首を捻るリュカの右手では―― ――使い魔のルーンが、淡い光を放っていた。 前ページ次ページ日替わり使い魔
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貴族派に取り囲まれたニューカッスルにて、結婚式を行おうともちかけたのはワルドである。 ルイズは即座に応じたのだが、こうして式を執り行おうとしたその時になると、突如として杖を振り、ワルドを吹き飛ばしてしまったのだ。 「わたしと本気で契りたいのならば、その杖は不要のはず! 目出度い婚約の儀に武器を持ち込むとは、ワルド、あなたはわたしと結婚するつもりなんてないのね?」 「ち……違う。僕は……決して、そんなことは」 「ルイズにはお見通しよ。さあ皇太子殿下。この不埒者はわたしが成敗いたします」 「ど、どういうことなのかね」 ウェールズも困惑しているが、ルイズだけは並々ならぬ自信の炎を目に宿らせ、続けた。 「先日の夜わたし達を襲撃した白仮面の男、あの男とワルド、あなたはまったく同じ人物だったわ」 「か……顔は見えなかった。僕にはそんなことは……」 「顔などたった一要素に過ぎないわ。かたち、魔法の使い方、筋肉の流れ、におい……全てあなたと白仮面は同じ。 そしてあなたは風のメイジ! 遍在を使えることは間違いないなり!」 「な、なり……?」 ワルドは身の震えを抑えながら、目の前のあの小さなルイズに問いかけた。 段々変貌しているような、そんな気のする相手だが…… 「ルイズ……昔の君はそうじゃなかった。一体何が君を変えてしまったんだ?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 叫んでルイズは杖を振り上げる。 「不退転戦鬼、ゼロのルイズ! 散さまになりかわり、無礼者ワルドに天誅を下すなり!」 「ハララ……あの使い魔か……」 「ゼロ式魔法防衛術! 爆破!」 なんのことはない、いつもの失敗魔法である。 しかしルイズの精神力がことのほか充実していたためか、ワルドを凄まじい威力が襲う。 「ぐおっ!? ルイズ、残念だよ、君を仕留めなければならないだなんて」 「戯言は不要! 爆破!」 容赦の無い魔法であった。 流石にこれはたまらないと、ワルドはすぐさま詠唱を行う。 ルイズの爆発をかいくぐって、四体の遍在が姿を現した。 「さて、僕の……っく」 「爆破!」 本当に、無駄口を叩いている暇はなさそうだ。 それでも、この爆発。確かに威力も速度もなかなかのものだが、まだまだ戦闘のプロであるワルドには及ばない。 しかも遍在もいるのだから、ルイズの隙をついての魔法など容易いものだ。 (僕の小さなルイズ。君にはそんな杖を振っている姿など、似合わないよ……) いくらかの愛惜を覚えながら、ワルドの、ルイズの死角にいる遍在が詠唱を終える。 ウィンド・ブレイクにて、ルイズを仕留めるのだ。 「さようなら! ルイズ!」 「……うぬ!」 死角からの痛打! 小さなルイズは、その猛烈な風の打撃にたちまち吹き飛ばされた。 礼拝堂の壁に叩きつけられ、ずるりと床に崩れ落ちる。 「使い魔は選ぶべきだったね、ルイズ。……では改めてウェールズ殿下。お命頂戴いたし……」 「爆破!」 倒れたはずのルイズは、そのワルドの思惑を容易く打ち砕いた。 強烈な打撃により、骨のいくつかも砕けたはずである。 事実、ルイズの口元から血が零れ落ちている。しかしルイズはそれをものともせず立ち上がっているのだ。 「ぐ……」 不意を衝かれたワルドだったが、今の爆発も致命の一撃には程遠い。 改めてルイズを見るに、最早ボロボロで戦えるようには見えなかった。 「やめておきたまえ。ルイズ、せっかく助かった命を散らすこともないだろう」 「戯言は不要と言ったはずよ! 爆破!」 「昔から……意固地になると君は聞かなかったね……!」 もう一度、ワルドとその遍在は詠唱を行う。 五方向からのウィンド・ブレイクである。一撃ですら容易に人の命を奪えるというのに、それが五つ重なったとなれば…… 「今度こそ! さらばだ、ルイズ!」 「……! 爆破!」 ルイズを中心に巨大な爆発が起こった。 ウィンド・ブレイクを防ごうとして果たせなかったのだろうか。 風の魔法とこの爆発によって、今度こそルイズは砕け散った……そうワルドは思ったのだが。 「ぬ……微温いわ、ワルド! それでもスクエアのつもりなの!?」 「ル……ルイズ。君は、そこまで……」 なんと。ルイズは、全身に傷を負い、滂沱の如く血を流しながらも、なおも立ち上がっていた。 鑑みるに、五方からのウィンド・ブレイクが自身に命中するその一瞬前、自らに爆発を放ったのであろう。 爆発によってウィンド・ブレイクの威力は相殺され、こうしてルイズは生き残ったのだ。 しかし体内に爆破を行ったのである。ルイズの内蔵も最早ズタズタのはずであった! 「君は、君はそこまでして戦える人ではなかったはずだ! 何故だ! ルイズ、何故こんなにも!」 「全て散さまのお陰!」 そう、ルイズは散に絶対の愛を捧げていた! 使い魔として召喚し口付けを受けた、あの散に! 散の言葉によってルイズは、ゼロの名をおぞましきものから栄光の名へと変えたのである! ――ルイズよ! 零式とは最強の武術の名なり! ならばゼロのルイズとは! ――はい! ゼロのルイズとは最強の魔術師の名にございます! ――その通りだ! 「この身は既に散さまのものなれば、爆破しても死にいたるはずがなし! ワルドごときの魔術恐れるに足りないわ!」 「そう……か。そこまであの使い魔に入れ込むとはね……」 気力のみでここまで戦えるルイズに、ワルドは戦士としての畏敬の念を抱いた! 裏切ったとはいえ魔法衛士隊長である! 武人として一流の血がその念を呼び覚ましたのだ! 「ならばこれで本当に最後にしよう。尊敬を込めて君を仕留める」 遍在もろとも、揃って杖を構える! 刺し貫く魔法、エア・ニードル! 近接戦の必勝形であった! 「僕の手で直接仕留めることが君への手向けになるだろう。いくぞルイズ!」 「来い~!」 血まみれのルイズが吼える! それに呼応するように遍在は揃ってエア・ニードルを構え、突撃した! 瞬間! 「この刹那を待っていたわ!」 「なんだと!?」 全てのエア・ニードルがルイズに突き刺さる! しかし同時に、全てのワルドがルイズを中心として動きを止めていた! 「不退転戦鬼たるもの、実力の及ばぬ相手に抗する技はひとつ! 肉弾幸なり!」 「バカな! ルイズ、君は!」 ルイズ渾身の爆発である! 数瞬後、目を開けたウェールズが見たものは、崩れ落ちるルイズとそれを支えるアンリエッタの姿であった。 「ア、アン!? どうして君がここに……」 「ルイズの莫迦!」 アンリエッタはルイズの頬を張った。 気絶していたルイズがうっすらと目を開ける。 「ひ……姫殿下」 「このような局面で肉弾幸を使い、散さまが喜ぶと思っているの!?」 「アン、散さまって……」 ウェールズの呟きは無視された。 「ルイズ。本懐を遂げるにはまだ早すぎるわ」 「で……でも、ワルドが……」 「ワルドごとき散さまの敵ならず! 狙うは大将首でしょう! 走狗相手に相果てたところで何になるのですか!」 「あ……ああ……!」 ルイズは涙を流していた。 「不甲斐なしやルイズ! 命の使いどころを誤ってはなりません!」 「ああ……姫殿下。わたしは散さまに申し訳のつかないことをするところでした」 「分かればよろしいのです。では! 此度の戦果、ともに散さまにご報告いたしましょう!」 手に手を取って帰ろうとするルイズとアンリエッタ。 流石にウェールズは聞いてみた。 「アンリエッタ……昔の君はそうじゃなかった。一体、何が君を変えたんだい?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 「あ、やっぱりそっすか」 ルイズはコントラクト・サーヴァントの折に燃える口付けを。 アンリエッタはルイズの部屋に忍んで来た夜、燃える口付けを。 双方受けたため、この有様となったのであった。 「ふふふ……元はと言えばルイズもアンリエッタもこの散を召喚した魔法国の王侯貴族! しかし散の燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのだ!」 美 し さ は 兵 器 ゼロのススメVoltex 完
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前ページトリスタニア連続殺人事件 ルイズ「私があなたを召喚したルイズです。『ミス・ヴァリエール』と呼んでください。 ここが事件のあったトリスタニアです。どういう風に捜査を始めますか?」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「私の何を調べますか?」 →おっぱい ルイズ「やめてください」 →ひとにきけ ルイズ「では、この辺りの人に聞き込みをしてみます。 ヤス! わた……『ルイズちゃんは最高!』だそうです」 ヤス「他に情報は無かったのか?」 ルイズ「ありませんでした」 ヤス「自演乙」 →なにか みせろ ルイズ「何を見せますか?」 →ぱんつ ルイズ「いつも見せてあげてるじゃないですか、エッチ」 ヤス「それもそうだな、グヘヘ」 →たいほ しろ ルイズ「あなたが逮捕されるべきでしょう」 ヤス「何で俺が逮捕されなきゃいけないんだ」 ルイズ「毎晩私にあんな事をしているくせに?」 ヤス「合意の上だろう」 ルイズ「駄目だこいつ。早く何とかしないと」 →よべ ルイズ「誰を呼びますか?」 →ミス・ロングビル ルイズ「なぜミス・ロングビルを呼ぶのですか?」 ヤス「もちろん太腿をすりすりするためだ」 ルイズ「ファック・ユー。ぶち殺すぞ、ゴミめ」 →ばしょいどう ルイズ「どこに行きますか?」 →ラブホテル ルイズ「まだ昼間ですよ」 →まほうがくいん ルイズ「では、魔法学院に向かいます」 ルイズ「魔法学院会議室です」 →ひと さがせ ルイズ「会議室には誰もいないようです」 ヤス「それじゃ会議室プレイをしようか」 ルイズ「君は本当に馬鹿だな」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「どうしますか?」 →なにか とれ ルイズ「何を取りますか?」 →ふく ルイズ「私が脱いだら、このSSが削除されますよ」 ヤス「それは困る」 ルイズ「期待してた奴ぷぎゃー」 →すいり しろ ルイズ「何を推理すればいいのかわかりません」 ヤス「事件についてだよ! 事件!」 ルイズ「事件って何ですか?」 ヤス「連続殺人事件だろ?」 ルイズ「そんなものは起きていませんが」 ヤス「え?」 ルイズ「それよりももっと重大な事件が起きているのです」 ヤス「何だそれは」 ルイズ「子供ができました。私とあなたの子です。責任取ってください」 ヤス「な、何だってー。そんな馬鹿な、避妊はしたはず」 ルイズ「タス、まだわからないのですか。ゴムに穴を開けておいたのです。見事な危険日中出しでした」 ヤス「オーノー。ていうか、殺人事件じゃなかったのか」 ルイズ「いいですか。よく考えてください。恐ろしい連続殺人事件よりも、新しい命が誕生する事。その方がとても素晴らしい事件じゃないですか」 ヤス「でもタイトルには『連続殺人事件』って」 ルイズ「すまん、ありゃ嘘だった」 ヤス「な、何だってー」 ルイズ「あっ、陣痛が!」 ヤス「えっ、もう!?」 ルイズ「ひぎいっ、陣痛イイ!」 ヤス「何てこった、事件は現場じゃなく会議室で起きてるんだ!!」 ルイズ「早くー、救急馬車ー」 →でんわ かけろ ルイズ「お前がかけろよ」 ヤス「サーセン」 ルイズ「ひっひっふー、ひっひっふー……あー、頭出てきたー」 才人『はい、平賀です』 ヤス「あっ、間違えました」 ルイズ「馬鹿野郎」 こうしてルイズは元気な双子を産みました。 ヤスとルイズはメディアに大きく取り上げられ、2人はめでたく結婚しましたとさ。 めでたしめでたし。 トリスタニア連続出産事件 終わり ルイズ「な……、何ですか、このゲーム……」 ロングビル「もちろん、この魔法学院を舞台にしたゲームですよ?」 ルイズ「いや、これはいくら何でも……」 キュルケ「ま、そういう反応が自然よね……」 ロングビル「何よー。退屈してる生徒を楽しませようと思ったのに。結構苦労したのよ、これ」 キュルケ(あなたは口出すだけで、作ったのは私でしょうが……) ルイズ「でもこれは酷いですよ……。何か出産しちゃってるし。『陣痛イイ!!』とか訳がわかりませんよー」 ロングビル「陣痛はイイッ!! のよ。私は知ってるわ」 キュルケ(そりゃエロ小説の中の知識でしょうが……) ロングビル「はあ……、こんな事がまかり通るのもこの学院が暇なせいよね……」 キュルケ(暇なのはあんただけよ……) ルイズ「やっぱりきちんとした教師がいないと……」 キュルケ「そうよねー。この学院にも早く教師が来るといいわねー」 ロングビル「まったくオールド・オスマンも何をしてるやら……」 キュルケ「あら? そういえばオールド・オスマンは?」 ルイズ「オールド・オスマンなら今日は早く帰ったみたいですよ。今日は大事な日なんだそうです」 キュルケ「大事な日?」 ロングビル「ああ……、そうか。以前オールド・オスマンが言ってたわね……」 ルイズ「知ってるんですか? 教えてくださいよー」 ロングビル「駄目。これはオールド・オスマンの大事な思い出に関わる事だから……」 ?「……お世話になりました」 守衛に挨拶をし、牢獄を後にする。 僕は今日釈放となった。 そして懐かしい人が目の前にいる。 オスマン「『ラ・ロシェール港の見えるこの場所で会おう』。そういう約束じゃったね。出所おめでとう」 ?「……オールド……オスマン……」 オスマン「ふふ……、久しぶりに会ったんじゃ。昔のように呼んでくれないか。なあ……、そうじゃろう、ヤス?」 ヤス「……もう一度……、呼ばせてもらえるのですか? ……ボス……」 オスマン「もちろんじゃとも」 ヤス「ボス……、僕は……ううっ……! ボス……!」 オスマン「おいおいヤス、何を泣き出してるんじゃ? ……さあ、行こう。ミス・アニエスも君を待っているぞ」 ヤス「……はい! ボス!!」 トリスタニア連続殺人事件 原作 ヤマグチノボル 開発 ちゅんそふと 製作 えにっく ヤス「ボスもせっかちですね。そんな性格だと女の子に嫌われますよ」 ヤス「かなり古い建物です。何でも昔外人が建てた物を買い取って改築したとか……」 ヤス「ボス、ここはラグドリアン湖じゃありませんよ」 ヤス「僕に脱げと言うのですか? ボスはまさか……」 ヤス「わ、わかりました……」 ヤス「ボス、見事な捜査でした。僕がアニエスに召喚された文江の兄です。妹達を死に追い込んだ、あの2人を許せなかったのです」 アニエス「その後は私が話します」 ヤス「アニエス! お前は逃げろって!」 アニエス「ヤスは黙ってて!」 ヤス「これで全ておしまいです。でも皮肉なもんですね、殺してからコルベールが後悔してた事がわかるなんて……」 ヤス「僕があなたの使い魔の真野康彦です。『ヤス』と呼んでください」 オスマン「……おお、そうじゃ、ヤス」 ヤス「何ですか、ボス?」 オスマン「君の勤め先を用意しておいたよ。メイジに魔法を教える学院なんじゃがね……」 前ページトリスタニア連続殺人事件
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前ページ次ページアクマがこんにちわ がたがたがたと音を立てて、馬車が進んでいく。 音の割には振動が少ないのは、貴族御用達の車体だからであろう。 その馬車に乗っているのは、人修羅とルイズ。 人修羅は魔法学院の制服と同じシャツとズボンを着用し、その上からジャケットを着ている。 傍らには杖の代わりにデルフリンガーが立てかけられており、すぐにでも引き抜けるようになっていた。 これで半ズボンなら英国に似てるかな? と考えていると、隣でうとうとしていたルイズが眠気に負け、こつんと人修羅の肩に頭を乗せてきた。 人修羅はその様子に微笑み、窓から外をちらりと見た。 ボルテクス界では見られなかった…いや、日本ですら見ることのできない、広大な草原や牧場が広がっている。 のどかな風景を見ながら、人修羅は今朝のことを思い出していた…… ■■■ ヴァリエール家へと帰省する当日、前日のうちに手配していた馬車が、夜明け頃に魔法学院へとやってきた。 門前で待っていた人修羅は御者に挨拶すると、ルイズに馬車の到着を知らせ、ルイズと一緒に馬車へと乗り込む。 乗り込む前に人修羅は、車体を支えている板ばねを見て「へぇー」と感心の声を漏らした。 「何か感心するようなものでもあったの?」 馬車が走り出した後、向かい合わせで座ったルイズが、意外そうに聞いてきた。 人修羅はいろんなことを知っている、今まで聞いたことのない魔法の理論と、ハルケギニアと違う文化の話は、ルイズにとって大きな興味対象であった。 「ああ。板ばねがさ、車輪と車体の間に入っていたから、この世界にも乗り心地のいい乗り物があるんだと思って」 「板ばね? あなたの世界じゃ珍しいの?」 「珍しくは……ないな。トラックとかダンプって言うんだけど、荷物を運ぶための車には板ばねが使われてるって聞いたことがある。他にも空気を使ってるらしいけど」 「空気?まさか、風系統の魔法を使って乗り心地をよくしてるの?」 「魔法じゃないよ。でも原理は一緒かな、伸び縮みする筒に空気を入れて閉じこめると、ゴムみたいに伸び縮みする筒ができるんだ。それをばねの代わりに使うのさ」 「ふうん、レビテーションとは違うんだ…あ、でもそれって『エア・ハンマー』みたいな空気の固まりの上に乗っているのと一緒よね」 「まあ、そんな所かな。俺は専門家じゃないからよく分からないけど」 「ところでさ、この馬車って…借りるのに相当…お金かかるのか?」 「何でそんなこと聞くのよ」 「この前ブルドンネ街に行ったとき、こんな大きさの馬車は見かけなかったし」 「これはね、ブルーム・スタイルって言うの。平民が使うコーチ・スタイルと違って乗り心地もいいし、貴族ならこれぐらいの馬車は当然よ」 ルイズは腕を組んで自慢げに言い放った、が、すぐに手を解くと両手を大げさに広げて、首を横に振った。 「…本当はもう一回りか二回り大きい馬車を借りたかったけど、オールド・オスマンが『お忍びで帰省するんだから、必要最低限のものにしなさい』って言ったから……」 「お忍びねえ…この馬車でも、お忍びとはとても思えないんだけどなあ」 「そんなこと無いわよ、お姉様はいつも仰っていたわ、ヴァリエール家はどんな時でも、最低でも侍女を二人以上と、幌馬車をつけなさいって」 「……」 人修羅頭をぽりぽりと掻きつつ、ルイズの言葉から導き出される馬車一行を想像した。 四人、いや六人は乗れそうな馬車を四頭の馬が引き、その後ろには幌付きの馬車があり、中には着替えなどの荷物を詰めたバッグと、侍女が二人…… 侍女役にはシエスタの姿を想像したが、これはご愛敬…… 「なんて言うか、凄いなあ」 「当然でしょう。ヴァリエール家は王家の傍流でもあるのよ。トリステイン王女の危機を救った祖を持つの。馬車三台でも少ないぐらいよ」 「はあ。さいですか」 人修羅は思わず『まるでファンタジーだな!』と叫びそうになった。 …とまあ、そんな風に喋りながら馬車が進んでいったが、日が高くなってくるとルイズも眠いのか、時々目をしょぼしょぼとさせていた。 「大丈夫か?」 「…ん、ちょっと眠いかも」 「どうせ夕べはほとんど寝てないんだろ?今のうちに眠っておいたらどうだ、どうせ夕方近くならないと到着しないんだろう?」 「そうね、ちょっと眠るわ…ふわ」 ルイズは手で欠伸を隠しつつ、人修羅の隣へと席を移した。 「?」 「ゆ、揺れて椅子から落ちそうになったら、押さえるのが使い魔の仕事よ」 「なんだよその取って付けたような仕事は。別に良いけどさ」 「……つべこべ言わないの…ふわぁ……」 ■■■ そして場面は冒頭に繋がる。 ルイズが人修羅の肩に体を預け、寝息を立て始めてから、一時間弱の時間が経った。 窓から外を見ると、野草の小さな花が咲き乱れる草原が見える、その中に点在する木々の影は、真下を向いている。 「昼か…なあデルフ、起きてるか?」 人修羅は、デルフリンガーの柄を顔と同じ高さに持ち上げると、が小声で呟いた。 『おーう。起きるも何も、剣は眠れねえよ』 「そりゃすまなかった」 かちゃかちゃと小さい音で鍔が鳴る、どうやらデルフなりに気を遣って、小声で喋っているらしい。 『第一、おめえも眠る必要は無いんだろ?』 「まあな。でもまあ、睡眠が無いと人間の生活を忘れちゃいそうでさ」 『そんなもんかねえ』 「そんなもんさ…ところで、ちょっと相談なんだが…」 『言ってみ』 人修羅はデルフリンガーを右手で掴み、柄を肩に乗せた。 「これからルイズさんの両親に会うかもしれない」 『まあ、そう思うのが当然だわな』 「デルフは、伝説の使い魔ガンダールヴの左手…だろう?この世界じゃちょっと知名度が高すぎるんじゃないか?」 『知名度は高ぇよ、でもブリミル由来のアイテムって呼ばれてるものはいくらでも在るんだ、それこそ与太話扱いだね』 「デルフみたいなインテリジェンスソードも、与太話扱いか」 『今は自我を持たされたガーゴイルもガリアで作られてるし、喋る奴も珍しくはないとか、武器屋の親父がよく悪態ついてやがった』 どこか懐かしそうに呟くデルフリンガー、それが6000年生きた剣の感性かと思うと、人修羅は少し人生の先輩に敬意を払おうかと思えてきた。 「なるほどね…。とりあえず、この『ガンダールヴ』と『デルフリンガー』は、オスマン先生から口止めされてる、って事で口裏を合わせておこう」 『おう、分かった。後で嬢ちゃんにも口裏を合わせておけよ』 「そうする」 ■■■ がたごと、がたごとと馬車が進む。 今、丁度昼頃だろうか?と思いつつ外を見たところで、ゆっくりと馬車が静止する。 人修羅がルイズの肩を軽く揺すると、ルイズが目を覚ました。 「うぅん…なに?旅籠にでもついたの?」 「休憩じゃないかな?」 (……!) (……) ふと、外から何者かの声が聞こえてきた。 「ん…?」 目をこするルイズを横目に、人修羅が外の様子を見ようと扉に手を伸ばす。 だが、その手がドアノブを掴む前に扉が開かれ、眼鏡をかけた金髪のルイズ…といった感じの女性と顔を合わせる羽目になった。 ふと、ロングビルさんをちょっと厳しくしたような感じかな?と思ったが。 「どきなさい下郎」 ちょっとどころじゃ無かった。 「え、ええと、どちら様で」 「えっ、エレオノールお姉様ー!?」 「ちびルイズ!お供もつけずにこんな下郎を馬車に乗せて!何を考えているの!」 金髪の女性は喋りながら小声でレビテーションを操り、人修羅の体をぽいと馬車の外に放り投げた。 そのまま入れ替わるように馬車の中に乗り込み、ルイズの顔に手を伸ばす。 「いだい! やん! あう! ふにゃ! じゃ! ふぁいだっ!」 ルイズは頬をつねりあげられた。 プライドの高い、ちょっと高慢で負けず嫌いなルイズが、文句も言えずに頬をつねり上げられている。 その光景を見た人修羅は、引きつったような笑みを浮かべた。 「ハハ…マジかよ、ルイズさんを手玉に取ってる。上には上が居るんだなあ」 『嬢ちゃんの強化版って感じだなあ』 人修羅とデルフは、数十分にわたって続くエレオノールのお説教を外で聞いていた。 ■■■ さて、それからしばらくして、人修羅はルイズ達とは別の馬車に乗り、ゆっくりと流れていくヴァリエール領の景色を眺めていた。 先ほどから、ルイズとエレオノールの乗る馬車から声が聞こえてくる。 『ちびルイズ。わたくしの話は、終わってなくってよ?』 『あびぃ~~~、ずいばぜん~~~、あでざばずいばぜん~~~』 人修羅の耳は小さな声も聞き逃さない、ルイズが頬をつねられ、半泣きで謝っている声が聞こえてくると、その姿が容易に想像できる。 先頭の馬車は、エレオノールが乗ってきた馬車であり、今はルイズとエレオノールが乗っている。 二番目の馬車は、ルイズと人修羅が乗っていた馬車だが、今はエレオノールの従者と侍女が乗っている。 三番目の幌馬車には、エレオノールの従者と侍女が乗っていたが、今は人修羅一人と、デルフリンガーが一振りしかいない。 『相棒、ひとりぼっちで寂しそうだな』 ぼけーっとしている人修羅に、デルフリンガーが話しかける。 すると人修羅は、ちらりと御者の姿を見た。 馬を操る御者はゴーレムらしい、人間そっくりの姿をして、見事に馬を操っているが、一言も喋らない。 「寂しいとは思わなかったが…御者までゴーレムだと寂しい気がしてくるな」 『そうかい?』 「ああ。……経験あるんだよ、こういうの」 それっきり、人修羅は何も語らなかった。 言いにくいことだと察したのか、デルフリンガーも聞き返そうとせず、沈黙を選んだ。 流れていく景色を見ながら、人修羅はボルテクス界で共に戦った幾人もの仲間を思い出した。 マネカタから鬼へと転生した仲魔、フトミミ。 彼は仲間を大切にする心を持っていた、そして人修羅の持つ孤独感にも気が付いていたのだろう、人修羅がどんなに強くなっても、変わらぬ態度で接してくれた。 もしボルテクス界にいたマネカタ達が、ゴーレムのように意志を持たない人形だったら、自分は心が壊れていたかもしれない。 彼らは人間的で、時には人修羅に無理難題を押しつけることもあったが、今思えばソレも楽しい、笑って許せる程度の物だった。 トウキョウがボルテクス界に変容する前の日本は、ゴーレムのような、都合の良い道具ばかりを発展させようとしていた気がする。 だからだろうか、人間味の無い力に憧れる社会は、いつかその無機質な力に人間が飲み込まれていく。 だからこそ平成の世の中に、アクマが求められたのだ…… ■■■ 魔法学院を出て、二日目の昼。 ラ・ヴァリエールの領地に到着した人修羅たちだったが、屋敷に到着するのは夜になると聞かされ、人修羅は馬車の中で一人冷や汗を流していた。 「日本じゃ考えられない規模だな」 そう呟いて、今までの行程を思い出す。 領地に入ってから屋敷につくのが半日後、これまで農地や森や山や川や草原やら牧場やらを目にしていた。 世界各地の列車に乗って、車窓から見える景色を堪能する番組があったが、それを馬車で再現したような感じだった。 ぼんやりとした想像しか出来ないが、まあ要するに、ルイズの実家は東京ドーム、いや東京ネズミーランドよりはるかに大きいらしい。 市町村で言えば、市ほどの広さだろうか、もしかしたら県ほどあるのかもしれない。 「大地主、ってレベルじゃないよなあ……」 ヴァリエール家は公爵家だと言っていたが、時代劇に出てくる藩主ぐらいの地位なのだろうか? 大貴族というものは恐ろしい、と人修羅は思った。 更に驚いたのが、魔法学院では決して見られないルイズの貴族っぷりである。 とある旅籠で小休止したルイズ&エレオノール一行だが、旅籠に馬車を止めたとたん、どどどどどどどどどどど!という足音が聞こえてきた。 それは、勢いよく旅籠から飛び出てきた村人達の足音だった、村人達は馬車から降りてきたルイズたちの前で帽子を取り、挨拶している。 「エレオノールさま! ルイズさま!」 と口々にわめき、ぺこぺこ頭を下げていた。 人修羅は呆れたような顔でそれを見ていたが、ルイズの従者役なのでじっと見ているわけにも行かない。 馬車から降りルイズ達に近寄ろうとしたが、人修羅もまた村人達に囲まれてぺこぺこと挨拶をされてしまった。 「俺は貴族じゃないんですけど……」 あんまりにも頭を下げられるので、人修羅は微妙に恐縮し、そう返事した。 「とはいっても、エレオノールさまかルイズさまの御家来さまにはかわるめえ。どっちにしろ、粗相があってはならね」 しかし農民達はそんなことを言って頷きあう。 魔法学院では考えられなかったが、ルイズの家来はかなりの立場として見られるらしい。 「背中の剣をお持ちしますだ」だの「長旅でお疲れでしょう」などと騒いで、人修羅の世話まで焼こうとするのだから、人修羅は愛想笑いしかできなかった。 エレオノールが口を開いた。 「ここで少し休むわ。父さまにわたしたちが到着したと知らせてちょうだい」 その一言で、ルイズ達に群がっていた中の一人が直立した。 魔法学院の生徒と、同年代に見える少年が馬にまたがって、走り去っていった。 その間に一行は旅籠の中に案内された、人修羅はどうしようかと悩んだが…とりあえず旅籠に入るのは止めておくことにした。 誰もいない馬車の中で、ごろんと寝ころぶ人修羅を見て、デルフリンガーが呟く。 『なあ相棒、嬢ちゃんの側にいてやらないで、いいのかい?』 「今俺が行っても邪魔になるだろう、姉妹水入らずで話したほうが良いさ」 『怖いんだろ?』 「否定はしない」 そんな話をしている間にも、ルイズが地雷でも踏んだのか、エレオノールの説教する声とルイズの泣きそうな声が聞こえてきた。 『あの二人、飽きねーなぁ』 「……行かなくて良かった」 ■■■ 夜もふけた頃、人修羅は何かに気づき、馬車の幌から顔を出し外を確認した。 前を行く馬車の脇から、丘の向こうが見えると、そこには大きなお城が見えている。 魔法学院どころか、トリステインの宮殿並に大きいそのお城へ、街道が続いているように見える。 「もしかして、あれ?」 高い城壁、深そうな堀、城壁の向こうに見えるいくつもの高い尖塔。 旅番組で見かけるお城そのものであった。 その瞬間大きなフクロウが、ばっさばっさとエレオノールの馬車へと飛び込んでいった。 耳を澄ますと、「おかえりなさいませ。エレオノールさま。ルイズさま」という誰かの声が聞こえてくる。 「まさか、あのフクロウの声か?デルフどう思う」 『どうって、喋るフクロウなんて珍しくねーだろ?』 「……そうだよな、よく考えたらお前喋る剣だもんな」 更に、耳を澄ます。 「トゥルーカス、母さまは?」 エレオノールの声だ、トゥルーカスというのはフクロウの名前だろう。 「奥さまは、晩餐の席で皆さまをお待ちでございます」 なんか腹が立つぐらい淀みなく答えているフクロウ。 「父さまと、ちぃ姉さまは?」 今度はルイズだ、どことなく不安そうな声に聞こえる。 「旦那さまも、奥様とご一緒にお待ちになっておられます、カトレア様もルイズ様のお帰りを今か今かと待ちわびておられますよ」 そうこうしているうちに、一行は城へと近づいていた、お堀の直前で静止すると、向こうに見える門と跳ね橋がゆっくりと動き始める。 よく見ると、門柱の両脇に控えた巨大な石像が、じゃらじゃらと音を立てて跳ね橋の鎖をおろしている。 身長20メイル近い門専用ゴーレムが跳ね橋を下ろす姿は、ボルテクス界で非常識なものを見慣れた人修羅でも驚く程壮観だ。 ■■■ 豪華絢爛! と表現するしかない。 少ない語彙からは、すばらしいです!とか、高そうですね!とか、そんな言葉しか出てこない。 それほど城の中は凄かった。 壁を見ても床を見ても天井を見ても、調度品を見ても、メイドさんを見ても高級そうな城内は、人修羅を驚かせた。 いくつもの絵や美術品が飾られた部屋を何個も通り、ようやくダイニングルームへと到着すると、そこもまたとんでもない部屋だった。 人修羅はルイズの使い魔だという事で、晩餐会への同伴が許されたが、正直なところ逃げ出したい気持ちがあった。 ルイズの椅子の後ろで、護衛のように控えるだけなのだが、それでも30メイルはありそうなテーブルを見ると嫌でも緊張する。 そんな巨大なテーブルにルイズの一家五人分しか椅子が準備されていない、しかも周囲に20人ほどの使用人が並んでいる。 魔法学院で貴族の生活に多少は慣れた気もするが、そんなのは幻想だった。 テーブルマナーのテの字も分からない人修羅には、針のむしろのような空間。 もし、この場所で一緒に夕食を、と言われたら本気で逃げ出していたかもしれない。 上座に控えた公爵夫妻は、到着した娘たちと人修羅を見回した。 人修羅はその迫力に、思わず「親子だ…」なんて考えてしまった。 人修羅の力や知識のおかげで、ルイズの高慢さはだいぶ落ち着いていたが、それでも貴族らしい高飛車さはある。 それを手玉に取るエレオノールは、とんでもない高飛車オーラを放っていたが、ルイズの母はもっと凄い、この母にしてあの娘ありだ。 ルイズの父親は、母に比べると迫力こそ薄い気がしたが、それがかえって威厳を感じさせている。 二人とも歳は40程に見えるが、もしかしたら50ほどかもしれない、何せ16才のルイズに年の離れた姉が二人いるのだ、何というか若々しい夫妻だと思う。 ふと気が付くと、ルイズがやけに緊張していた。 そっと視線を動かすと、ルイズの母と人修羅の目が合った。 鋭い刃と、今まさに吹き出んとする火炎放射器の種火のような眼光が人修羅を射抜く。 生まれつきの才能と、英才教育と、戦いの中で磨かれた光だと思った。 (やっぱり顔にまで入れ墨のある男が使い魔じゃ、納得しないよねー) そんなことを考えながら人修羅は、もう一人のルイズの姉を見た。 カトレアというその女性は、ルイズの桃色がかったブロンドにごく近い、どうやら母親ゆずりの髪質らしい。 「母さま、ただいま戻りました」 と、エレオノールが挨拶した。 すると公爵夫妻は静かに頷く、それを合図にして三姉妹がテーブルについた。 丁寧かつ上品に、給仕たちが前菜を運び……晩餐会が始まった。 後ろに控えていた人修羅は、ボルテクス界でカツアゲにあったのと同じぐらい息がつまりそうだと思った。 誰も喋らない、物音すらほとんど無い。 堅苦しいと思っていた魔法学院での食事がとても楽に感じられる、それぐらいこの空間は厳しい。 デザートと、紅茶が運ばれたのはそれから何時間後だろうか。 実際には一時間も経っていないが、五時間ぐらい経過したような気がする。 長い長い沈黙を破るようにして、ルイズが口を開いた。 「あ、あの……、お父様」 公爵は返事をしない、その代わり、公爵夫人がルイズに声をかけた。 「ルイズ。なぜ突然帰省などしたのですか」 ルイズはどこかビクビクしながら、使い魔を召喚したこと、使い魔が異国の魔法を使えること、使い魔が治癒のマジックアイテムを作成したこと…… それがカトレアの病を治す手だてにならないかと思ったこと、オールド・オスマンに相談し帰省の許可を得たことを話した。 「つまり、先住魔法を使う亜人なの? いえ、そんなことより、貴女はサモン・サーヴァントを使うことが出来たわけね?」 エレオノールの問いかけに、ルイズは頷いた。 それを見たもう一人の姉、カトレアは優しそうな笑みを浮かべてルイズを見た。 「良かったわ、ルイズが魔法を使えて。使い魔さん、お名前を教えていただけないかしら」 「え? ああ、俺は人修羅といいます」 貴族相手とは思えないぶっきらぼうな態度に、周囲がヒヤッとした。 エレオノールに至っては不機嫌そうな表情を崩しもしない。 「人修羅さんは、ルイズを守ってくれているのね?」 「まあ一応」 人修羅が笑みを浮かべて答えたが、そこで公爵の横やりが入った。 「カトレア、話は後にしなさい」 すっ、と口を閉じるカトレアだが、相変わらず嬉しそうな笑みを浮かべたままだ、それを見たルイズの緊張もだいぶ解れている。 厳しい長女に優しい次女か…と思ったところで、公爵が人修羅を見据え、呟いた。 「人修羅と言ったな、ふむ。亜人が召喚されたなど、聞いたことが無いが…」 「お、お父様、人修羅は亜人じゃありません、人間ですわ。今は亜人ですけど……」 ルイズがおそるおそる訂正しようとするが、どこかぎこちない。 「人間?だとしたら余計にサモン・サーヴァントで呼び出された前例が無いではないか」 公爵がちらりとエレオノールに視線を移した。 「ええ、アカデミーの記録では、サモン・サーヴァントの研究で本や金属が召喚されたのみですわ」 「あ、あの、わたし、本当に、召喚に成功したの!だからっ」 ルイズは叫ぶように言葉を放った。 「落ち着きなさいルイズ、貴女が召喚したと言うのなら、疑うわけはありません。…貴女は、カトレアの治癒のため使い魔を連れて帰省した、そうですね?」 公爵夫人の言葉に、ルイズが小声で「はい」と答えると、婦人もまた満足そうに頷いた。 公爵は婦人からの目配せを受け、頷く。 そして人修羅とルイズを見つめると、重々しく口を開いた。 「ルイズ、オールド・オスマンが帰省の許可を出したのなら、使い魔には相応の実力があるのだろう。カトレアの診察を認めるが…エレオノール、立ち会いなさい」 「はい」 とりあえず、人修羅は使い魔として認められたらしい。 ルイズはほっとして胸をなで下ろした、が、そこでまたエレオノールが口を開いた。 「ところで……、先ほど言っていた、治癒のマジックアイテムだけど、どういった物なの?」 ルイズはぎょっとして、硬直した。 よく考えたらマジックアイテムがどんな物なのかは、よく知らないのだ。 「ひ、人修羅、答えなさい」 微妙に声が裏返りつつ、ルイズが呟く。 人修羅は公爵夫妻とルイズの姉たちに注目されて、微妙に緊張している、なんか高校の面接を思い出すようだ 「正確には、魔法学院の教師ミスタ・コルベールに協力を仰いだもので、私一人で作った物ではありません。 召喚されて間もない頃、俺…私の魔法が先住魔法だと言われたのですが、あいにく先住魔法や系統魔法といった分類があるのを知りませんでした」 人修羅は喋りながら、ズボンのポケットを探り、2サントほどの大きさがある、緑色の結晶体を取り出した。 「自分の魔法と、ハルケギニアの系統魔法の相違点を知る研究の一環として、マジックアイテムの作成を行っていました。これはその一つです」 壮年の執事が給仕が近寄って、人修羅の脇でお盆を差し出した、人修羅はその上に結晶体を置く。 執事は音もなくエレオノールに近寄り、その結晶体を見せた。 「ふぅん…これがそうなの。」 そう呟くとエレオノールは杖を取り出し、ディティクト・マジックで結晶体を調査しようとした。 魔法アカデミーの研究員たるエレオノールなら、マジックアイテムの構成などすぐに見破ってしまう。 しかし今回ばかりは、膨大な知識と経験をもってしても計り知れぬものがある、と知ることになってしまった。 たった2サント程の、小さな結晶体に、途方もない”力”がこもっている。 トリステインの王女アンリエッタが持つ杖には、水晶玉がはめ込まれており、そこに魔力を蓄積しておけるのは研究員が皆知るところであった。 エレオノールは、それに似た魔力の蓄積体や、風の力が込められた『風石』の研究をしたことがある。 この結晶はそのどれとも違う。 もし、この結晶に込められた魔力が治癒ではなく、火の魔法だとしたら…? おそらくこの屋敷が跡形もなく吹き飛ぶぐらいの力が込められている…そう気づいて、エレオノールは珍しく慌てたような表情を見せた。 「……ッ!」 杖を人修羅に向け、ディティクト・マジックを行使する。 人修羅の周囲に光る粉のような物があらわれ、人修羅の体へと吸い込まれていった。 「あっ」「ちょっと待って」 ルイズと人修羅は制止しようとしたが、後の祭り。 エレオノールの顔色がみるみる青ざめ……ふっと意識を失い、椅子から転げ落ちた。 ■■■ 所変わってガリアの王宮グラン・トロワ。その離宮プチ・トロワでは。 「くすぐったいホー」 「ああ、ごめんね、でも柔らかくていい臭いで……なんて言うんだろうね、癒される、そうだ体じゃなくて心が癒される気がするよ」 ベッドの上で枕代わりになったヒーホーに、イザベラが顔をこすりつけていた。 夜になるとイザベラは人払いをする、イザベラとヒーホー二人きりの時間になると、イザベラはヒーホーに抱きついたり顔をこすりつけたりしている。 「ああ、かわいいねえ、もうホント幸せだよ……」 にくったらしい従姉妹のことや、自分に興味を示さない父王のことなど、どうでもよくなってくる。 ヒーホーから聞いた話では、もっと大きいヒーホーもいるらしい。 また、時々黒いガクセイボウ?という帽子を被ったモミアゲの目立つヒーホーも見かけられるとか。 「ねえヒーホー。お前を召喚できたことが、私にとって唯一、本当の魔法かもしれないよ…」 とろんとした目つきでそんなことを呟くイザベラ、ヒーホーは体をゆすってイザベラから離れると、ベッドの脇にちょこんと直立した。 「そんなことは無いホー、イザベラちゃんなら、いろーんな魔法が使えるホー」 「魔法ねえ……自慢じゃないけどさ、私はちょっと風を出して、ほんのちょっと傷を付けることしかできないのさ。 ……ああ何か不思議だねえ、ヒーホーになら私、何だって言える気がする……」 「う~ん、イザベラちゃんはすごく魔法の力が強いはずだホー……」 ヒーホーはちょっと腕を組んで、首をかしげる。 その仕草を見てイザベラがだらしなく頬を緩めた。 「そうだホ!他の魔法を試してみればいいホー」 「他の魔法?」 イザベラがきょとんとして、聞き返した。 「もうすぐスカアハが来てくれるホー、ボクからもお願いするから、イザベラちゃんも魔法を習ってみるといいホー」 イザベラは体を起こして、ベッドの上からヒーホーを見下ろした。 普段のイザベラを知るものなら考えられない、いわゆる女の子座りである。 「スカアハって誰だい?」 「まほーと戦いの先生ホね。生徒も沢山居るって聞いたホよ」 今度はイザベラが首をかしげた、魔法の先生とは、ヒーホーのような存在なのだろうか? ヒーホーがヒーホーに魔法を教えている光景を想像して、またもやイザベラはにやにやと顔をほころばせた。 「…と、ところで、そいつは何ができるんだい?」 「う~ん……毒消をしたり、竜巻を起こしたり、ヒーホーよりおっきな氷を作ったりするホね」 そう言われて、ヒーホーが作った氷と、かき氷を思い出した。 ヒーホーより一回りか二回り程度大きな氷を作るぐらいなら、メイジ全体で言えばたいしたことはない。 「ふぅん…まあいいか、機会があったら教えて貰うよ」 イザベラは子供をあやすように呟きつつ、ヒーホーを抱き寄せた。 「弟子にしてもらえるよう、ボクからもお願いしておくホね」 「はいはい」 二人はいつものようにベッドに入ると、杖を降りランプを消す。 イザベラは、ヒーホーを抱きしめている間だけ、王位争奪の争いによる不安を忘れることができる。 ここ数年得られることの無かった安眠を、イザベラは心の底から喜んでいた……。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「そんなの嫌あああ!」 キリの発言に頭を抱えて狼狽するルイズ。 「ルイズ、ごめん……っ。そんなに嫌だった? もうしないよ。ね、落ち着いて」 その言葉にルイズは、今度は途端に目を見開いてキリの顔を正面から見据える。 「もうしないの!? そんなあっ!」 「だって嫌って……」 「違うのよ! そうじゃないのよ! キリが……、キリがキス上手だから、だから……っ!」 そう言うルイズの脳裏にはキリと多種多様な妖怪達とのキスシーンが次々浮かび……、 「あ゙ ー!!」 ……自身の想像に耐えられなくなり絶叫した。 「ルイズ、大丈夫!? どうしたの!?」 「ねえ、今までに何人とキスしたの!? 何回したの!? 誰としたの!?」 「え……、そんなのいちいち覚えてないよ」 「い……、いちいち覚えてない……。覚えてないほど……?」 衝撃に目眩を起こしたルイズ。ただでさえ不安定な樹上でそのような事になれば当然、 「ルイズっ」 「きゃああああ!」 ――ズザザザザザー 派手な音を立てて落下し、キュウリを手に反撃中のキザクラ・それを受けつつ後頭部の口でキュウリを食べているベニの背後の茂みに、脚だけ突き出した格好を晒した。 「な……、何なの」 「た……、助けなきゃ」 「あら?」 ふと気付くと、ルイズは前後左右もはっきりしない純白の世界に立ちつくしていた。 「キリ……? ねえ、どこ……?」 少し歩くと純白の空間が四角く切り取られていて、そこからかすかにキリの笑い声が聞こえてきた。 『ふふ……、あはは……』 「キリ!」 喜色満面という表情でその向こうに駆け込むルイズだったが、次の瞬間硬直する。 「あはは、ペロったら」 そこではキリ・ペロが激しくキスを交わしあっていた。 「ちょっ……、何してるの?」 ルイズの声に振り向いた2人はあっけらかんとした表情で、 「ルイズ」 「だってルイズはやだって言ったし」 「違……っ、そんな、やだ、やめて! 嫌ああああ!!」 「嫌ああああ!!」 絶叫と共に布団をはねのけてルイズは目を覚ました。 「おー、目が覚めた」 「あ……、あれ? 私……」 周囲をきょろきょろ見回し、ここが自室に敷かれた布団の上だという事を認識する。 「そうか、夢だったのね。あー、よかった……」 ほっと安堵の溜め息を吐いたルイズ。しかしその溜め息の理由に困惑する。 「ん? ……あれ? 何で? 何で夢でよかったの?」 ――ガラララ…… 「ルイズ! よかった、目が覚めたんだね」 するとそこに、おにぎりを山盛りにした皿を手にキリが部屋を訪ねてきた。 「キリ!!」 「お腹空いてるだろうと思って食堂行ったら、丁度ベニがおにぎり握ってて」 キリの背後から出てきたベニがルイズに軽く一礼する。 「え……」 「ルイズにお見舞いにって。ね」 「お口に合うかわからないけど……」 顔を接近させて微笑むキリに、はにかんだ表情になりつつベニも微笑む。 (何で二口女が……。まさか……) その姿に、ルイズの脳裏にキリが下のお口をベニの後頭部の口で激しく責められている光景が浮かんだ。 「そんなの嫌あああ!」 「ルイズ!?」 顔を真っ赤にして叫んだルイズだったが、キリの言葉に我に返る。 そこで自分が見せた**に気付き、いっそう顔を赤くして頬を押さえる。 「やだ、嘘、そんなわけないじゃない! 私おかしいわっ!」 「ルイズ……、顔赤い」 キリはそっと自分の額をルイズの額に当てて熱を測る。 「熱でもあるのかな」 (し……心臓がバクバクするわ!) 「ルイズ? 苦しいのか?」 そこへルイズの異常を察したらしく、ペロもキリの肩越しにルイズの様子を見る。 「!!」 その様子を見たルイズの心中で何かが焼かれ熱く膨らんでいった。 (え、あれ、やだ、何? ペロがキリにくっついてるだけで……。嘘、今まで気にした事無いのに) そんなルイズの心情を知ってか知らずかキリ・ベニは、 「熱があるならお粥にした方がいいかな?」 「そうだね。ありがとう、ベニ」 と親しげに会話していた。 (あ、あ、やだ、近付きすぎ!! 駄目……っ、これ以上焼いたらもちが焦げる!!) 「キリに触ったら嫌ー!! キリが他の子とくっつくのは嫌なのー!!」 凄まじい形相になって絶叫を上げたルイズに、一同は驚愕してルイズに向き直る。 「顔こわっ」 「ルイズ?」 (どうしよう。あたし……、あたし……、キリに恋してるんだわ……。女の子同士なのに……、でも……でも……) ルイズの想いはもう止まらない。 ルイズにはキリへの溢れる想いを彼女に伝える以外の選択肢は残っていなかった。 「キリが好きなの……っ! 独り占めしたいくらい大好きなの!」 「ルイズ……」 突然の告白に驚愕を隠せなかったキリだったが、そっと微笑むとルイズの顔を真正面から見据える。 「私も、いつも元気で明るくて笑顔のルイズが可愛くて可愛くて大好きだよ」 「キリ!」 そのままキリはルイズの顔に唇を接近させていく。 「いいとこなのにっ」 「しー」 見物の最中にベニに部屋を追い出されて不満げな声を上げるペロを、ベニが静かにさせて事の次第を2人に任せる。 一方、キリはルイズの鼻に「ちょこん」という擬音がよく似合うような軽いキスをした。 「はっ、鼻っ!」 「あはは」 鼻へのキスに不満げな表情のルイズは頬を膨らませていたが、 「ルイズ?」 激しく抱きついてその勢いのままにキリの唇を奪った。 「きゃーっ!」 「ルイズ、顔真っ赤」 自分で仕掛けながら照れのあまり絶叫したルイズの顎をそっと上げて、 「我慢してるのに可愛すぎて困る……」 先程同様に軽く、しかし今度は唇にキスをする。 「我慢しなくていいのよ! だ……、だって恋人同士になるんだから!」 そのルイズの言葉に、キリは突然ルイズから手を離して俯いて沈黙した。 「………」 「キリ? どうかしたの? え? あれ? 違うの?」 「……あのね、本当は言いたくないけど、でもルイズが大事だからちゃんと言うね」 「キリ?」 「ねえ、覚えてる?」 顔を上げたキリは心底辛そうな表情で、 「私と恋人同士になるって事は、ルイズも妖怪になっちゃうんだよ! 本当にいいの?」 (私が妖怪にー!?) 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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召喚の日の翌日。 1限はミセス・シュヴルーズによる授業だった。 彼女は「温和なおばさま」といった容姿と性格を持つ人物である。 一部の生徒からは下に見られることもあるが、多くからは「親しみのある良い先生」と慕われる。 それ故に、進級後の第一回目の授業には彼女が選ばれやすいのだ。 教室に入ると、その彼女は満足げに口を開いた。 「このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 教室には文字通り多種多様な使い魔たちが溢れている。 バグベアー、スキュア、ジャイアントモール……そして、 吸血鬼、吸血鬼、人狼、執事。 何かが明らかにおかしいが気にしてはいけない。お兄さんとのお約束である。 気にしてはいけないのだが、やっぱり気になってしまったのがミセス・シュヴルーズの運の尽きであろうか。 「おやおや。ずいぶんと変わった使い魔を召喚した方々もいらっしゃるのね」 思わず言ってしまった。 これがこの世界の無数の予期せぬ事態を招く一因だったと、今のシュヴルーズには理解できない。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」 シュヴルーズに悪意はなかったのだが、これ幸いと野次を飛ばす生徒が出たのだ。 これに慌てたのがシュヴルーズ自身である。 実は彼女はコルベールから事前に使い魔達の詳細をもらっており、、 故にルイズが召喚したのが吸血鬼だと知っていた。 さっきから妙にこっちを凝視している彼女がそうだろう。視線が痛い。 赤い瞳がこっちを刺すように光っていた。 何故かシュヴルーズの中で「アーニーソーン アーニーソーン♪」という透明感のある歌声がループし出す。 だんだん意識が遠のいてきた。いや授業中よシュヴルーズしっかリしナサイ―― アア……アザラクサマハスバラシイ先生デス。 「うるさいわね、かぜっぴきのマリコルヌ!グールにされたくなきゃ黙ってなさい!」 「僕はかぜっぴきじゃない!大体、吸血鬼だって?『ゼロのルイズ』にそんなものが召喚できるか!」 「なんですって!?」 言い争いは激化していき、 ガタン、と騒ぎの中心である二人が立ちあがり杖を抜いたところで、 「おだまりなさい!」 唐突にシュヴルーズは声を荒げた。自身でも驚くほどに。 眼がぐるぐるしてアンインストールという単語が頭上を駆け巡っている気がしたがそんなことはなかった。 ……たぶん。おそらく。そのはずだ。 「お友達に杖を向けるなんて……いけません!そんなことでは2人とも始祖ブリミルに見放されますよ!! いいですか?杖を向けて良い相手は悪魔共と異端共だけです」 「「先生ッ ごめんなさい ごめんなさい~~~~~~ッ」」 温和な様子を見せていたはずのミセス・シュヴルーズ、その怒りと狂信は恐ろしいものだった。 異様な迫力に両者は引くべきだと判断、すぐさまその場は収まる。 が、当然だが2人とも納得はしていない。 これが、後にある事件の発端となる。 ともあれ、授業が再開。 今日の授業は魔法の概論の復習と『土』系統の基礎だ。 『火』『水』『土』『風』の四系統と、今は失われた『虚無』。それがこの世界を支える魔術。 なんとなくミセス・シュヴルーズの顔色が悪いが、声は明瞭なので心配ないだろう。 ほう、と感心したのはアーカード。 一つは生活に密着する、この世界における魔法の汎用性に対して。 そしてもう一つ、自分の仮の主たるルイズに対してだ。 ミセス・シュヴルーズの説明は全くの門外漢たる自分にも分かりやすい。 もちろんそれはシュヴルーズの技量でもあるのだが、もう一つ、内容が基礎の基礎だということでもある。 それこそ、学院の生徒には不要な程に。 だがそれにもかかわらず、ルイズは真剣に話を聞いていた。 周囲と同様冷めた目で見てはいるのだが、態度に表さない。 最初の騒動を見て心配していたのだが、どうやらそれは杞憂だったようである。 しかし――。 (……面白くないのう) いや、授業内容はそこそこ為になるのだ。だがアーカードは現在(外見)年齢十歳以下の幼女。 精神年齢は(ある程度)肉体年齢に依存する。だから大人しくなどしているわけにはいかないのである。 『さっきの』は楽しかったし主のためにもなったが、やはり不完全燃焼なのは否めない。 だから、 「のうルイズ――」 主人に少々ちょっかいを出すのも仕方ないのである。 「のうルイズ、腹が減ったのだが。というか朝起きたせいで眠い」 「……何ですって?」 小声でルイズが反応する。 「だから、腹が減ったと言ったのだ。なんだかんだと言って召喚してから私は一食もしていないぞ」 「――それは、そもそもあんたが私をさっさと起こさないから」 「起こせ、とは言われておらぬ。そもそも夜の眷族より遅く起きるのはいかがなものか?」 う、とルイズが詰まる。 「食事か睡眠、どちらかを寄越せマスター」 「……わかったわよ、授業が終わったらね」 とうとうルイズは折れた。だが、 「私は今眠いのだマスター」 「だから、今は授業中だからダメだってば!」 思わず声が大きくなるルイズ。 「……はッ!」 しまった、とルイズが気付くが時既に遅く。 「――ミス・ヴァリエール?」 満面の笑みを浮かべたミセス・シュヴルーズがそこに居た。 (計画通り!) (くそっ、やられた!) にやり、と笑いを浮かべた従者、屈辱に震える主。 やがて、まんまと罠に嵌められた主は、ミセス・シュブルーズの指示にゆらりと立ち上がる。 そして前へと呼ばれ、実演をしようとしたその時、 ――殺す―― ルイズの口元は確かにその言葉を紡いでいたと、後に『青銅』のギーシュは証言する。 この日、”謎の大爆発”によって教室二棟が吹き飛んだ。 負傷者十数名の大惨事。 アーカードは頭が吹っ飛んだが、騒ぎが大きく、また即座に再生したせいで誰にも気付かれなかった。 ルイズだけは再生途中のアーカードを見て彼女が化け物であることを再確認する。 余談だが、ギーシュ・ド・グラモンは使い魔の活躍により外傷こそ負わなかったものの、 頭を打ったため保健室で昼過ぎまで寝ていた。 使い魔がずっと付いていた他、女子生徒二人がお見舞いに来たらしい。 ちなみに、当初昼から講義に出られると太鼓判を押していた保険医は見舞いの後に前言を撤回している。 何のことかは全く不明だが、片方は完全にダメになったとか。いや何のことかは全くもって分からないが。 だが、この授業を皮切りに、一般生徒とルイズは溝を深めていく…… かつて。 まだルイズがサモン・サーヴァントに成功する前のこと。 ルイズは嘲笑の対象ではあったが、かつて両者の関係はそこまで深刻ではなかった。 何かあっても、今まで一般生徒は「所詮『ゼロのルイズ』」と見下すことによって溜飲を下げていた。 そしてルイズも『ゼロ』という言葉への適切な切り返しを持たなかった。 それが両者のバランスであり、事が済めばそれなりに笑い合えているのが常だったのだ。 だが―― 吸血鬼アーカード。 彼女の召喚により、全ては大きく変わった。 ルイズが初めて成功した魔法。召喚された「吸血鬼」。 その種族の力と性質を考えれば、今までルイズを嘲笑っていた生徒たちが不安になるのも無理はなかった。 更に「私は『ゼロ』ではない」という自信をルイズが得たことで、対立構造は明確なものとなる。 ただ、一方で良い方向の変化もあった。 同じく人・亜人を召喚した生徒と一緒にいるようになったことだ。 これは(本人は否定するかもしれないが)お節介焼きなキュルケの功績と言えよう。 以前、キュルケは内心に忸怩たる思いを抱えていた。 ルイズと比較して、自分が優っていると自信を持って言えるのは魔法の実技のみだとキュルケは知っていた。 はっきり言って、魔法実技、スタイル、性格――この三つを除いてルイズを評価すれば、自分より上を行く。 全てにおいて、しかも簡単には埋めることが出来ないほどに、だ。 それを自覚し、それを原動力として自身をトライアングル・メイジへと押し上げるに至ったキュルケには、 自身と対等以上の能力を持っている「ライバル」への偏見が酷く不快だった。 だから、実のところルイズの成功をルイズに次いで喜んだのがキュルケだ。 これでやっと自分とルイズの「本当の勝負」が始まるのだ、と。 そんなわけで、キュルケは召喚の儀以降、何かと挑発しつつもルイズに付いているようになったのである。 その心境は妹を見る姉に近いかもしれない。 すると自然とタバサもついてくるわけで。「人型使い魔を持つ人間が固まっている」構図が出来上がり、 そんな中で独りだと自分の使い魔が寂しがるために(ギーシュ談)、 ギーシュもまたこの輪の中に混ざるようになった。 そうして三日も経つ頃には、彼らは「ゼロのルイズ御一行」と認識されるようになる。 その彼らも、今は食堂で昼食をとっているのだが…… 他生徒から距離を空けられているのは使い魔の異様さゆえか、それとも本人らの実力とアクの強さゆえか。 ――たぶん、両方だろう。 そんなことを思いながら、唯一「普通」である(と思っている)ギーシュ・ド・グラモンは 居心地悪そうに昼食を食べる。 あれ以来、ケティやモンモランシーの視線が痛くてここに逃げてきたギーシュだが、 何故か余計に痛くなった周囲の視線に首をかしげていた。いろいろと空気の読めない子である。 他の生徒からすれば、ギーシュは「女の子がいっぱいのところに特攻してる」ようにしか見えない。 しかもキュルケ、タバサ、ルイズ、アーカード、セラスと、 囲んでいるのは性格その他に目をつぶればかなりの美人揃い。 ケティやモンモランシーから言わせれば「またかコノヤロウ」な状況なのである。 とはいえ、あまりにおかしな集団に直接声をかける者がいないので視線だけが分厚くなっているのだが。 ――ところが。この日は珍しく、彼らに話しかける者がいた。 それが事件を巻き起こす。 「よう、ギーシュ。今度は誰が目当てなんだい?」 にやにやとした笑いで話しかけてきたのは、『風上』のマリコルヌ。 空気の読めなさではギーシュに次いで定評のあるおデブだ。 「マ、マ…えーと真理子塗る……じゃなかった、マリコルヌじゃないか」 一瞬「誰だっけ?」と言いそうになったのはギーシュだけの秘密。 まあ、思い出しただけまだましかもしれない。 「……誰?」 「………さあ、知らないわ」 「…ああー、アレよ、『かぜっぴき』」 上からタバサ、キュルケ、ルイズだ。 「だから僕は『風上』だと言っているだろうッ!」 あまりの悪態に、くそ、とマリコルヌは吐き捨てる。 「これだから『ゼロのルイズ』は…」 「風邪のせいで頭が回ってないのかしら?あいにく私はもう『ゼロ』ではないの」 「それ以来成功してないんだからどっちにしろほぼ『ゼロ』じゃないか! 大体、本当に召喚が上手くいったかも分かったものじゃない」 ハッ、と嗤ってみせるが、これが地雷だった。 この言葉にキュルケが反応したのだ。 「あら、あたしとタバサにも言ってるのかしら、おデブさん?」 最高に見下した視線で言い放つ。 「僕もかい、マリコルヌ?」 同調するギーシュ。 それに倣い、がたり、とルイズ一行の全員が立ち上がる。 う、とマリコルヌがたじろいだ。 はっきり言って、この集団に凄まれるのは怖い。 ぶくぶくと肥え太った彼に動物的な野性は残されておらず、故に彼にはアーカード達の危険性は分からない。 が、「トライアングル・メイジが二人もいる」という事実が彼に心的負担を強いた。 何せトライアングル以上というのは戦略級の実力を意味するのだから。 だが、それ故に勘違いが起きやすい。 トライアングルさえいなければ――そう思ってしまう奴が時々居るのだ。 そして、マリコルヌはあまり賢くなかった。 「ぐっ…『トライアングル』の二人はともかく、ギーシュとルイズはどうだろうな。 どう見てもただの平民じゃないか!まあ、二人にはぴったりかもしれないけどね」 色々とマズい事を言い放ってしまったマリコルヌ。 これにブチ切れたのは他でもない、始祖の吸血鬼とその主。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 妙な迫力とともにルイズが杖を振り上げる。が、振り下ろさない。 何だ、と思ったマリコルヌが見たのは、鋭い歯を剥き出しにした幼女の姿。 後悔先に立たず、である。 『逃げたら……分かってるわよね?』 という視線を送るルイズを背に、アーカードがゆっくりとマリコルヌに近づいていく。 焦ったのは残りの当事者二人――ギーシュ・ド・グラモンとセラス・ヴィクトリアだ。 (このままじゃあ『大惨事』になるのは確実です!) セラスがギーシュにアイコンタクトを送る。 (確実!) ギーシュが適切に解し、返し、 (そう、ワインを飲んだら酔うくらい確実ですッ!) バァーーーンという効果音とともに二人が驚愕する。 (どうする、どうしましょう、ギーシュ・ド・グラモンさん!) (うろたえるんじゃあないッ!トリステイン貴族はうろたえないッ!) 最初こそ二人も怒ったのだが、何よりも先にあの二人が動いてしまった。 こうなるともう自分たちの怒りなんかどうでもいい。 ある意味最も怖い主従がブチ切れてしまったわけで、その時点で思考がシフトしている。 今あるのは唯々マリコルヌの生還を願う感情のみである。 (ああッ……ギ、ギーシュさん、マリコルヌ君が、マリコルヌ君が!) 片手で持ち上げられ、マリコルヌはプルプルと震えている。 (くそッ、時間がない!ええい、死体処理の手段を考えた方が早いか!?) もはや一刻の猶予もない。というか若干手遅れ気味だ。 こうなったら―― 「マリコルヌ・ド・グランドプレ!君に決闘を申し込むッ!!」 ――あと十秒遅かったら、僕は食堂に居た全員の口を封じなければならなかったろうね。 『青銅』のギーシュ 前へ戻る 次へ進む 目次へ